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第12話 · 永遠の別れ
慟 哭
2007年5月下旬…………
ススキノ · 直也の部屋
夜9時頃……………
初夏に入り始めた、
この時期、
直也は、前日の酒の飲み過ぎで、2日酔いが酷く、
出勤を取り止めていた………
店の責任者とは、電話でやり取りをし、
打ち合わせを済ませた……
頭痛や、吐き気を改善しようと、風呂に入り
軽く食事を済ませ、テレビを見ながら、ぼーっとしていると、
突然、携帯電話の着信が鳴ったので、画面を確認すると、
圭一からだった………
直也は、電話に出て
「 は ~ い 、どうした ~ ? 」
圭一が切羽詰まったような声を出しながら
「 今、どこにいるの ~ ? 、」
直也は体調が悪くて、
家にいる事を、伝えると、
圭一は、会って話したいと言ってきた…
直也は今から来てもいいと返事をし、圭一を待つことに……
チャイムが鳴ったので、
ドアを開き、圭一を招き入れたが、
居間のソファーで、向かいに座った圭一は、憔悴した
表情をして顔を伏せていた……
直也は聞いてみた……「 どうしたの ~ ? 」
しばらく黙ってた圭一が、決心したのか、ようやく、口を開いた………
「 きょう、会社の上司から呼ばれ、
使い込みが分かってしまったの……
明日、謝罪をしに、
親と一緒に来るようにと
言われて……‥どうしたらいいのか…… 、」
……‥直也は話しを聞いて、
少し考えてから圭一に言った…‥……
「 分かった ! 、朝一番で、
お金、用意するから、
俺も一緒に行って謝るから、
きょうは、おとなしく帰って寝な 、! 」……と…
( …… 何で、圭一が、お客さんから預かった、宝石の、
代金を使い込んだのか、………
直也には分かっていた…‥答えは簡単だった
銀行への支払いが、
毎月25万円位だと聞いていたが、
お金の事で、圭一は、直也に頼ってこなかった……
たぶん、他の人にも同じようにしてたはずだし…
その生活の中で、ふと、魔が差してしまったんだろう…… )
けれでも、圭一は家に帰って、
母親に言うなんて絶対、できないと
半分泣きながら訴えてきた………
二人の押し問答が続き、
直也は体調の悪さもあり段々疲れてきてた………
もう、話しをしだして2時間以上経ち
圭一は、泣きながら、
「 ……死のうと思う…………」
……‥と言ってきたので、直也は、叱りつけた……
「 なに、言ってるの ~ 、馬鹿言うな ! 、」
圭一は自分の意思を変える気はなく、
直也は、根負けして来ていた……
「 これから、失踪してどこ行くの… ? 」…とか聞いて
圭一に合わせる言い方をしてみたり……
……圭一は一度、家に帰ってから
そのあと、失踪するつもりだと言ってきた………
……この時、また、携帯電話が鳴り出したので、
見てみると、俊貴からの着信だった……
直也は、すぐに電話に出て、2日酔いで体調が悪く
休んでる事を告げていたが…‥…
その瞬間、
圭一が玄関の方へ …… ドアを開け、走ってエレベーに向かって………
直也は、あとを追っかけた…………夢中で……
直也が、エレベーターホールに着くと、丁度、圭一が降りていくところだった。
うつむいた圭一の顔が、一瞬見えて下へ降りていってしまい……
直也はあわてて、圭一の家に電話を入れた。
圭一のお母さんが出たので、
圭一が直也の部屋に来てから語った事を
話し、
「 家に一度帰ると言ってたから、そこで、つかまえてください ~ !! 、」……
と、頼んだ……
時間が進み、午前2時近くなっても
圭一の家からはなにも連絡が入らなかった……
直也は不安になっていき、俊貴に電話を入れ、事情を話し、
車を出してもらい、朝方5時ぐらいまで、探し回ったが……
ゆくえは、分からなかった……………
この日は、1日中、なにも動きは無かった……
圭一はいなくなったままで、どこにも消息がなく、
直也は、きのうの対応を後悔していた……
“ 圭一を部屋から出すべきではなかった、
もっと強く、殴ってでも縛ってでもいいから、捕まえて置けばよかった……
……そうすれば、圭一は、失踪しなかったのに……… ”
直也は、泣いてしまっていた………
「 圭 、ごめん、ほんとにごめんよ ~ 、死なないで … 、」
「 考えなおして、戻ってきて… 、頼むから… 、」…と
直也は仕事する状態ではなくなっていた
体も心も、もう、崩れそうだった……
圭一のお母さんや、直也の実家からも連絡が何回かあったが、
本人のゆくえは、まるっきり分からなかった………
翌日夕方位に、直也の部屋の電話が鳴り、
まさかと思い出てみたが、
なにも喋っては来ず、思わず、直也は
「 待って !! 、切らないで !! 、頼む !! 、圭 ~ !!! 、」…と叫んでいた…
でも、電話は無言のまま、切れた……
……… 失踪から2日後の昼、直也に母親から電話が入り、大きな声で、
「 吉沢さん、亡くなったよ !!! 、登別で … 、どうして、ついて行かなかったの… !! 、」と、
直也を責めながら、言い立ててきた……。
電話を聞いていた直也の目から、大粒の涙が、流れ出し……
直也は、崩れ落ちながら謝り続けていた…………
……圭一は、登別のオロフレ峠のメイン道路から外れた、
砂利道の途中、
車に排気ガスをひき死んだ……‥と聞かされ、
直也は、そこが、
2年前、二人が車の中で、
愛し合った場所だとすぐに気付き、さらに、泣き崩れていった………
…………………
…………………
6月3日、圭一の通夜が執り行われた………
直也も、直也の家族も八人ぐらいが出ていたが、
式は、暗く、あちこちから嗚咽が洩れていた………
直也は、圭一のお母さんから、圭一から直也宛の、遺書を渡された……
そこには
『 あなたを、心から、愛してました。
死ぬ時は、一緒が、よかった。
今度は、女に、生まれてくるから。』…………と、圭一らしい、
きれいな文字が書いてあった……
直也は、思わずトイレに駆け込み、
声を、洩らさないようにしながら、号泣していた………
涙を拭き取り、歯を食いしばりながら、通夜の
席に戻った直也を…………
憐れんだ目をして、じっと見ている、父親の姿があった………
…………………
……………………
それからすこし経ったある日
直也に、姉から、驚くべき話しが入った ……… が、
もう、今更、なにも言う事はなかった……
それは、圭一が直也に、別れを告げてきた、今から1年半ほど前、
実は、直也の母親が、圭一に、
二人は、別れて、それぞれ男として、正しい道を行くようにと
言っていたと………別れなさいと …………。
直也は、母親を恨むことはしないと……きっと良かれと思っての
事だろうし、
理解できない世界なんだろうし……
………ただ、圭一には辛い思いをさせてしまって、
ほんとうにごめんなさい………と…
また、生まれかわっても、圭一と、一緒になりたい………………
、 でなければ、 悪霊になって取り憑いてでもいいから、
……戻ってきて 、そばにいて欲しい…………と…………
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