そんなこんなで着いた水族館。一旦俺の荷物を取りに寄ってもらったので今の時間はもう夕方だ。ちょうど数日前からナイト期間ってのが始まってて、いつもの閉館時間より二時間延長で開館している。昼の水族館よりロマンチックで恋人同士にオススメだってCMが流れてたから知ってた。特にイルカショーがライトアップされていて目玉らしい。 もしかしたら理央はそれを黒川さんと見たくて誘ったのかも、と隣で仏頂面の理央を見た。黒川さんは三人分チケットを買いに行ってくれてる。俺の視線に気付いた理央は仏頂面に嫌悪感を上乗せして毒を吐く。 「本当になんでお前がいんの」 「…はぁ…そっちこそ…」 「せっかく廉と久しぶりに会えたのに」 「…はいはいごめん…」 もう不毛な言い合いをする気力もない。てかこんな子供じみた言い合いをこれ以上黒川さんに見られたくない。 まだグチグチ文句を言ってくる理央から視線を逸らし黒川さんを探す。ちょうど三人分のチケットを買い終わってこっちに歩いてくる所だった。周りの人は黒川さんが来るとサッと避けるから自然に道ができている。モーゼの十戒かよ。 「廉っ！ありがとう！早く行こ！！」 「ありがとうございます」 「はいはい、静かにしろよ」 黒川さんが来たのに気付くといち早く駆け出して腕を組む理央。俺が先に気付いたのに。こいつ絶対俺が向いた方見て見つけただろ。あんなキャンキャン吠えてるだけの奴なんかなんて事ない、番は俺だって思ってたのに、あんなに引っ付かれるとあまり面白くない。 渡されたチケットをぐしゃりと握り締めてしまう。 せっかく買ってくれたのに、と皺だらけになったチケットを慌てて伸ばす。 前を向くともう二人は館内へ入っていた。 俺がいるのなんか忘れてるみたいに。