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「華」 名前を呼ばれるそれだけで落ち着けと言われてるのがわかるけど、落ち着けない。心臓がドクドク変な音をたてて止まらない。 「…嫌…です…」 「華、聞いて欲しい…って言うのも変な感じだけど、昔の話だから落ち着いて聞いて欲しい」 掠れた声しか出ずに椅子に戻されて大人しく座るしかできない。一ミリも聞きたくないのに黒川さんは少し懐かしそうに話を続ける。 「まぁ…なんて言うんだ?わかり易く言うと政略結婚ってヤツだから。相手も経営者で裏の繋がりもあったんだよ。 俺も相手も親の言いなりで何も理解できないままそういう話になってたんだ。親父は組織がデカくなる事しか考えてなかったからな。 色々省くが式の当日、コレが見えるようになったんだ。」 黒川さんはそう言って自分の左手を俺にヒラヒラさせた。 左手がどうかしたのかわからず俺は首を傾げる。 左手…左手…?…あ!!!! うーんと考えていると出会ってすぐの頃に聞かされた話を思い出す。 「…あ、糸…ですか?」 「そうだ。今もお前の右手と繋がってる」 心底愛おしそうな顔で手を握られ、さっきまでの嫌な気持ちが秒でなくなる。我ながらチョロいと思うけどこんな顔されたらもう嬉しくて堪らない。 優しそうに細められた瞳も、ちょっと上がった口角も、ふふっと吐息で笑うのも全部がカッコよくて心臓がぎゅっと鷲掴みされたみたいに苦しくなる。 「親父に対しての初めての反抗だったよ。当日にやっぱやめにして下さいって相手の所に頼み込みに行くとか親父も思わないだろ。」 「まだ…誰と繋がってるかも分からなかったのに?」 「あぁ。こんなの運命としか言い様がない。絶対見つけて番にして紹介するって相手と親父に宣言したよ。」 嬉しいのか、申し訳ないのか分からない。 でも多分とても嬉しい。親に決められた相手よりまだ見ぬ俺を選んでくれた。

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