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保健室のドアには『職員室』と書かれた札が掛けてあった。 今は誰もいないのか。 ドアに手をかけると普通にスライドして開いたので中に入りとりあえず消毒液を探す。 ベッドが二つ並んでいる隣の棚に消毒液はあった。 同じ所にあったコットンに消毒液を染み込ませて肘と膝を擦ると、傷に染みて鋭い痛みが走る。 「いって〜…」 ガサゴソ棚を漁って見つけた大きめの絆創膏を貼る。 手当として合ってるのか分からないけど何もしないよりかはマシだ。 痛いなぁ、早く戻ってもう一回謝って練習しよう。 その時、ガラッとドアが開く音が聞こえて、保健医が帰ってきたんだと思い振り向く。 「金条〜大丈夫か〜」 頭を掻きながらフラっと室内に入ってきたのは体育教師だった。 「はい、少し擦り剥いただけなんで。…え、あの…」 先生は隣にくるなり肘に絆創膏を貼った俺の手首を掴む。 その素早さに嫌な予感がして腕を振り払おうとするが結構強めに掴まれていてビクともしないし体温が気持ち悪い。 「心配したんだぞ」 いやそれより今アンタが有り得ない強さで掴んでる俺の手首の心配してくれ。 「すみません、すぐ戻ります」 「いや、顔色が悪い、少し休め」 「えっ、」 トン、と軽く肩を押されそのまま後ろのベッドに尻もちをつく。 すぐにカーテンをシャっと閉められどこか冷静になり、ついにこの時が来たか、と思った。 俺はオメガだけど、ヒートがきてなかったから誰かに襲われる事なんか無かった。 『オメガが強姦される』という俺にはいつ起こってもいい事に現実味を持てないでいた。 どこか他人事の様に考えていた。 こうなって今更、やっぱり俺は弱いオメガなんだって実感している。 「まずは熱だな」 どこから取り出したのか体温計を俺の脇に挟ませようと体操服を捲ってくる。 「いや、ちょっと、何して」 「何だ」 手を止めようとしたのにギロっと睨まれ、その威圧感に逆に俺の動きが止まる。 ──アルファだ、この先生、アルファだった。 番ができたら狙われないって嘘だったのか。 「金条」 「っっっっぅ」 俺に覆いかぶさりゆっくり近づいてくる先生。 唇が触れるまで、あと数センチ。 「うわあああああああああああああ!!!!!!」 「い゛っ、?!?」 気持ち悪さで思わず大声を上げ、思いっきり蹴り上げた脚の脛に当たる温かく柔らかい感触が気持ち悪くてたまらない。 蹴り上げたのは急所だ。多分しばらく動けない。 横にドサリと股間を押さえ蹲った先生の傍から離れて、ガクガク震える脚を叱咤しながら保健室から出る。 「はぁっ、っは、ちゃんと動けよ足、」 ヨロヨロと廊下に出ても誰かがいるわけない。 シーンと静まり返っている。当たり前だ。今は授業中だしここは1階。1階には靴箱と保健室と食堂、少し離れた所に事務室があるだけで教室は無い。 「誰か、誰か助け、」 「逃げるな!!!!」 俺の足音より速い足音が聞こえて振り向くと先生があっという間に追いついてきて、俺の二の腕を掴む。 「…ぁ、あ、あぁぁいやだ…」 動かない足にチッと舌打ちされ、半ば引き摺られるように保健室に逆戻りした。 あっという間にベッドに乗せられて、また先生が覆いかぶさってくる。 「いや、いや、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」 黒川さんじゃない。 黒川さんは俺のこと乱暴に扱わないし、いつもフェロモンと香水のいい匂いがする。 腕を掴まれてもこんなに痛くないし、汗臭くもない。 涙はボロボロ溢れて止まらないし、手も足も震えまくって力が入らなくなってきた。 「お、おい金条、しっかりしろ」 「触るな!!!!!くろか、…」 狼狽えながら俺に手を伸ばす先生の腕を叩き落とすが、 その瞬間キーーーーンと嫌な耳鳴りがして、震えが酷くなってきて、その上 息が上手くできなくなる。 俺はどうなるんだろう。 番がいるのに他のアルファと行為に及んだらそのオメガは── 黒川さん、俺、黒川さんが大好き。 俺頑張って逃げようとしたんだよ。 穢れても嫌わないで欲しいな。

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