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社長とヤクザ

遠い意識の中でカタン、と物音がしてハッと目を開ける。 「!!」 先生はいなくて俺には綺麗に布団が掛けられていた。 上体を起こすとベッドがギシッと音を立て、それに気付いた保健医がカーテンの隙間から顔だけ覗き込んでくる。 「起きたの?大丈夫?斉藤先生が、あなた具合が悪いみたいって言ってたわよ。気分はどう?」 「…大丈夫です」 なんて言ってベッドから降りるが気分は最悪でしかない。 一応まだ生きてるけど、 「…最後までされてたらどうしよう…」 そう考えるだけで嗚咽が込み上げてくる。 自分が泥にまみれて物凄く汚くなったみたいで、今すぐ全身消毒するかシャワーを浴びたい。それだけ気持ち悪い感覚が肌に残っていて、悪寒と手の震えが止まらない。 「ホントに大丈夫〜?」 「はい…ありがとうございました…」 まだ心配している保健医を置いて保健室を出る。 帰り際に早退連絡用の紙を貰った。 今日はもう帰ろう。初めての早退だ。 教室に戻るともう体育は終わってたみたいで、クラスメイトは次の授業の準備をしていた。 「あ、華!大丈夫か〜?」 俺に気付き呑気に駆け寄ってくる爽。 一緒に来た琉唯くんは険しい表情をしている。 色々バレてそうだけど、言う気は無い。 「何があった、言え」 「何も無いよ、本当に」 安心させるように笑って答える。 爽にはよく『表情が解りづらい』って言われるけど今はちゃんと笑えているかな。 でも、と食い下がってくる琉唯くんは純粋に俺を心配してくれてるんだって分かってる。 絶対めんどくさいとか思わないのも分かってる。 けど言う勇気は出ない。 「…爽、黒川さんから名刺貰ってたよね、会社の名前なんだっけ」 「あ〜、財布にあるけど何で?」 名刺を受け取って荷物をまとめ始めると、琉唯くんはついに俺に掴みかかってくる。 「お前やっぱ何かあっただろ!?あの野郎だろ!正直に話せ!!!!」 「…目立つから落ち着いて」 ガクガク前後に揺さぶられて首が痛いしクラスメイトからの何事かって視線も痛い。 とりあえず学校から出たい。 こんな事してる間にまた見つかったらどうしよう。 「俺もう帰るから明日ノート貸して」 「おい!!」 「ん〜、了解〜。気を付けろよ〜」 変な想像をしてバクバクなり始めた心臓を落ち着かせるように深呼吸しながら教室を出た。

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