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最寄り駅まで歩きながらメッセージを作成する。 『黒川さんの会社に行っていいですか』 って・・・もう向かってるんだけど。 駅に着いて、電車に乗っている間も返事は来ない。忙しいみたいだけどやっぱりもう向かっているから引き返せない。 「…はぁ、っ」 カタカタと揺れる手は電車の振動のせいじゃない。 電車内に人は少ないし誰かが隣にいるわけでもないし誰かに見られているわけでもないのに、理由もなく不安になって、震えに加え冷や汗まで出る始末だ。 もし、もし今、斜め前にいる若い女の人がアルファだったら、俺は対応できるだろうか。 力勝負なら大丈夫だろうけどアルファとなると話は別になる。 そんな妄想ばかりして、どんどん自分を追い詰めるのが止まらない。 なんでヒートでもないのに、・・・俺が・・・ 考えてもわからなくて、効果はあるか分からないけど気休めに持っていた抑制剤を取り出してお茶で流し込んだ。 悔しくて、悲しくて、怖くて、情けなくて、ギリッと噛んだ唇から血の味がした。 * 「…勢いって…こわい……」 目の前にはデーーーンと聳え立つ近未来的なデザインの高層ビル。 学校から数駅と思ったより近かった。 まだ返事はきていない。既読にもなってない。 黒川さん、仕事中だし絶対迷惑だよな。 でも来ちゃったし…メッセージも返事はないけど送ったし…。 「うっ…」 こんな平日の昼間にオフィス街に高校生が体操着でいて目立たないわけがない。見てくれと言っているようなもんだ。すれ違う人はみんな俺をチラチラ見て歩いていく。 うーーーーーーーん・・・と考えむこと数分。 視線から逃れるためにも勇気を出して自動ドアを通る。 「…あの、すみません。金条っていうんですけど黒川さんいますか?」 入ってすぐの所にいた二人のお姉さんに声をかける。 笑顔が基本のはずの受付嬢さんは『なんでウチに高校生が、しかも体操服で社長を呼んで・・・なに・・・?』って困惑しきった表情をしている。 そりゃそうだ。俺と黒川さんは兄弟にも見えないしアポ無しだし不審者極まりない。 「…お約束は…」 「…あっ、…えっと、来るとか言ってなくて、…」 ・・・いや、メッセージを送ったんですけど返事がなくて勢いで来ちゃいました・・・なんて言えるはずない。 ただでさえ爽以外と話さなかった俺に他人、しかも綺麗なお姉さん、人見知りはしない方だと言っても多少緊張するのは事実だ。 しどろもどろになんとか説明するが怪しさが増すばかりでもう帰ろうと思っていたら、遠くから知っている声が聞こえた。 「金条さん?」 「…あっ…」 驚いた表情でタッタッと駆けてきたのは凛堂さんで、やっと信頼できそうな人を見つけた安心で情けなく喉がひくっと鳴った。

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