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着替え終わったのを伝えると凛堂さんは振り向いた。 「もう少しで社長がこちらに来られるようです」 「…あの、俺…あの…えっと…」 「僕には話さなくて結構ですよ。」 どう説明しようかと悩んでいるとそう言われほっと息をつく。 ・・・よかった。聞いても反応しにくいだろうし聞きたくないだろうし。 お互い無言のままの時間が少し気まずくなってきた頃、廊下から騒がしい足音が聞こえ、勢いよく応接室のドアが開いた。 「華?!どうした!」 入ってきたのは少し息を切らした黒川さんで、その後ろには数人のお偉いさんみたいな人もいる。 「黒川さ、…」 驚きと安心で一気に力が抜けてソファから立ち上がれない。凛堂さんがお偉いさん達を外に押し出してくれて、室内に二人きりになる。 「どうした?」 「こ、こわかった、」 黒川さんに伸ばした震える手はすぐにしっかり握られて、ソファに座った黒川さんの膝の上に移動するけど、その時の手つきはやっぱり優しくて、先生なんかと全然違うのにまた安心した。 「華、話せるか?」 抱きついた腕にぎゅっと力が入る。 話さないといけないのに、どこから話したらいいのか分からなくて、考えながらずっと匂いを嗅いでいると痺れを切らした黒川さんはぐっと肩を押して俺を離す。 「あぁっ、まって」 「おい」 もう一回抱きつこうとして、ちょっと怒り気味の声にハッと我に返って動きを止める。 早く話さないと。黒川さんからしたら仕事中に急に押しかけられて抱きつかれて匂いを嗅がれるっていう超絶迷惑極まりない状況なわけだ。 どこから話そう。 転けて保健室に行くってなった所から? いや、それだとなんで転んだって聞かれたら理央と二人三脚してて〜って話さないといけなくなる。 理央は黒川さんの弟だから悪く言えないし、いやまず理央は悪くないし、・・・。 とりあえず何か話さないと 「・・・あの、えっと、腕掴まれて、」 「なんで、誰に」 学校の先生、そう言わないと伝わらないのに。 思い出すと気持ち悪くて怖くて、誰かに話したのが先生にバレたらまた何かされるんじゃないかという心配に支配される。もしかしたら黒川さんにも何かするかもしれない。 「かっ、顔、・・・顔が近くて、っ、はっ、」 「おい、華」 息を吸っても苦しくて、 俺を揺さぶる黒川さんにも気付かなかった。 「…っ、蹴って、けって、逃げ、…っ、逃げた、のに、」 一生懸命吸っているのに吸っている感じがしない。 むしろどんどん水に沈んでいくみたいに肺が苦しくなる。 「逃げた、のに捕まって、・・・っ、」 「・・・逃げたのか、偉かったな」 もう息が苦しくて死ぬ、という所で一気に落ち着く匂いに包まれてハッと意識が戻った。

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