122 / 225

5 side 黒川 廉

「絶対守るから」 「…んっ…」 声を荒らげること無く、息を殺して涙を流す華の顔をこれ以上見たくなくて抱き寄せる。俺が大好きだと言って笑う割に手はガタガタ震えていて痛々しい。 他の奴には触られたからって、俺が嫌いになるなんて有り得ないのに。 珍しく好き好き攻撃を仕掛けてきた華。 嬉しくて可愛いと思ったけど表情はとても好きだと思っているようではなく何かを恐れているみたいだった。 まるで俺に『汚い』と言う隙を与えないように畳み掛けているようだと思った。 すっかり冷たくなった体に掛け布団を掛けて、撫でたりしていると華の呼吸が穏やかになってきて動かなくなった。 「…寝たか…」 腕の中で気を失ったように眠る華の頬を撫でる。 もちろん恥ずかしそうに視線を逸らしたり少し避けたりする反応は返ってこずにつまらない気持ちが勝った。 「もう大丈夫だから…何も心配するな…」 指通りの良い茶髪を触りながら自分も目を閉じる。 佐伯や早野にはなんでもないように振舞っていた様に見えたけど、実際結構キツかったんだろう。 会社に来た時はこの世の全てが敵ですみたいな顔してたし俺とまともに目も合わせなかった。 すぐ側で守れないのが歯がゆく、こうして抱き締めることしかできない。 想像していたより3年の差は大きかった。 世間一般的に見ると3歳差のカップルなんてそこら中にいるしそこまで差は感じないが、社会人と高校生となると大きい。 もし佐伯が俺だったら、清水が俺だったら、理央が俺だったら。もしを考え出すと止まらない。俺も同じ制服を着て同じ授業を受けて同じ時間を過ごしたかった。 「…俺だったら絶対お前を一人にしなかったのに」 こいつは何も悪くないのに抱き潰して学校に行けないように既に連絡を入れた事を後悔した。力で捩じ伏せようとしているのは俺もあの男と同じだ。 でも、今後あの男が華の視界に入る事はない。 まるで罪を犯した気分になる。人を一人消す。こんなのヤクザなら日常茶飯事なのに。 華の目が覚めたら俺は自分の汚い部分を見られない様に取り繕わなければならない。 『華の為』のように見せかけて『自分が安心する為』。 もちろん華が怖がらないようにする為だけど、それ以上に自分が怖かった。 番になっているからと言って他の人を好きにならないわけじゃない。それなら少しでも可能性のある人間を華の前から消せばいい。 嫌でも俺しか選択できないようにすれば良い。

ともだちにシェアしよう!