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卒業後もモデルなんかさせたくない。
まだ未成熟なのに不思議な魅力がある華。これが立派な大人の男になって色気を振り撒くと考えるだけで心配になる。
それと同時に、変な虫が引っ付きそうなのは容易に想像できるし、芸能界には顔もスタイルも良い奴ばかりだから華が他の奴に惚れないか不安で仕方ない。
どこにも行かないで毎日俺の帰りを待ってくれているだけでいいのに。
やっと捕まえたと思ったのにすぐに広い世界へ羽ばたいていく。
「…はぁ…」
パーソナルスペースは狭いけど一度気を許すととことん仲良くなりそうな性格の華。出会ってすぐの頃は無意識だろうが俺が触ろうとしたら少し避けられていた。ここ最近は結構受け入れてくれてて嬉しいのに、それを越えるやつが現れた。
華につけた佐伯だ。
必要以上に触るなと言ってあるのに現に佐伯との距離感は少し腹立たしい。
今日だって俺の目の前で手を握りやがった。
思い出すだけでイライラする。
二人も他の男が華に触れた。
好きだと思うほど上手くいかない。
「…行かないで」
傍にいて。
俺の手の届かない所へ行かないで。
ずっと俺だけを好きでいて。
それは願っても叶わない。
ただでさえ人生を捻じ曲げてしまったのに、これ以上何かを強いる事はできない。
「大丈夫…大丈夫…」
眠る華をより一層強く抱き締めながら呟いた『大丈夫』は、華の為でもあり俺の為でもあった。
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