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父親は40後半だろうか、もっと上かもしれないがスッと伸びた背筋が歳を感じさせない。華の堅い表情は父親譲りなんだなと思った。 隣にいる母親もとても若く見える。30代前半と言われても全然信じるし、おっとり笑って片手を口元にあてるその仕草が妙に似合っていた。サラサラの茶髪は母親譲りらしい。 思わずこのクソ暑いのも、周囲の事も忘れて金条夫妻と思われる夫妻を観察してしまう。 後ろからだから気付かれることは無いと思うがあまりにも観察に没頭していたので優斗から肘でつつかれ我に返った。 「…っあぁ…」 「で、どうすんの?」 どうすんのというのは多分、挨拶するか、今日の所はそのままスルーして後日訪ねるかということだろう。 「…息子さんを僕にください…いやまず今までの事を全部謝ってから…この場合は土下座からスタートか?優斗、どう思う?」 「落ち着けよ」 優斗が柄にもなく焦る俺に苦笑いしている。 こんなに緊張したのは初めてだ。 今日は当たり前だがスーツではなく黒のシャツにスキニーというどシンプルな格好だからまだいいが、やはり恋人のご両親に挨拶に行くならスーツだろう。新品を買わないといけないか? 勝手に番になったから尚更だ。 あとスーツを新しくするならネクタイもピンも、それに手土産もいるし…あぁ、今日は考える事が多い。 それから午前の競技をボーっと眺めていると昼休憩に入る。生徒は各々、自分の親の元へ解散し始めた。 「廉〜!見てくれた?!速かったでしょ!」 「あぁ」 俺の元へ一番に来たのは理央。 頷いて頭を撫でてやる。二人三脚は心配していたのが杞憂だった。意外と二人は気が合うみたいだ。 その後ろから華も辺りを見回しながらテクテク歩いてきた。

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