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人混みの中をキョロキョロしながら歩いていた華と不意に目が合った。
「は」
「あっ、黒川さん!!」
母親が華を呼ぼうとした声と、俺を見つけて珍しく笑顔で駆けてきた華の声が重なる。
「華…あの、…」
俺の前まで来て理央の隣に並ぶ華。
すぐにデフォルトの真顔に戻ったようだがその瞳は『褒めて褒めて』と伝えてきている。
か、可愛い…じゃなくて。
「…あ〜、華…」
華は近くに自分の親がいるのにまだ気付いていない。
「あら?」
中々自分に気付かない華に、華の母親が俺を見る。
俺は脳をフル回転させていた。
ここで俺は何と言えばいい?番ですって言うか?それとも華の友人の兄?間違ってはいないが後々面倒になりそうだ。
「あらぁ…かっこいいしモデルみたいな人、だったかしら?」
そうしている間にも華の母親の視線が俺の横顔に突き刺さって泣きたくなる。
お前がそんな珍しく笑顔で駆けてきてくれるのは嬉しいが俺はまだお前の父さんと母さんに挨拶していないんだよ…。
「あっ、お母さん〜!」
ぐるぐる思考回路を働かせていると、また新しい声が近付いてくる。
声の主は華がそのまま女になった様な見た目の子だった。
妹か?それにしては似過ぎてる。
その子は俺を見てから華にコソっと耳打ちする。
「あれ?お兄ちゃん、え?もしかして社会人の人?」
「え?由奈?え?母さんと父さん、来てたんだ」
ビクンと肩を揺らして妹を見た後に、近くの両親を見付けた華。
耳打ちされる距離に来て始めてその子の存在と両親に気付いたようだ。
俺しか見えていなくて可愛いけど今はそれ所じゃない。
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