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初めまして
午前10時すぎ、俺は金条宅にいた。
至って普通の二階建て一軒家で、家の中は広くも狭くもなく一般的な家庭のという感じの雰囲気だ。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「あ!はい、えっと、黒川さんです!」
俺が頭を下げた途端、隣に座った華が紹介する。
華…それはさっき玄関でも言ったし声がデカい。お前そんなデカい声出せんのか…。
隣から緊張しているのが伝わってきて俺まで余計に緊張する。
「華、上に行ってなさい。後で呼ぶ。」
ガチガチになって挙動不審な華。そんな華を見て腕を組んだ父親は言った。
華は不服そうな顔をしたが、黙って二階に上がる。
きっとこれからが本番だ。
膝の上に握った拳、手のひらが痛い。これから何を言われるのだろうか。
別れろとか、息子を返せとか、最低な奴だとか、クズだとか言われても仕方が無い。そう言われる様な事をしたんだ。
でも俺が華と出会ったのは絶対に運命だし、華を手放す気はない。攫ってでも俺の傍にいてもらう。それくらいの覚悟はある。
最終的には駆け落ちするか…?なんてアホみたいな考えが頭を過ぎる。
華が部屋のドアを閉めた音が聞こえた。
「華くんから全てを奪ってしまい申し訳ありませんでした」
まず深く頭を下げ、父親を見つめる。
すると父親はテーブルに手を着いて少し身を乗り出してきた。
「その事はもういい、華も毎日楽しそうだしな…。それより…」
華の前とはすごい変わり様で、先程までの堅い表情は何だったのかと言うくらい自分の子供を心配する様な顔をしている。
この人こんな顔するんだな…華の無表情はどこから来たんだ?
「それより…聞いていいかね?華は君に我儘を言ってるか?」
「我儘?いえ、不甲斐ないですがいつも気を使ってもらってます」
色々父親の変わり様に驚きながら答える。
華が我儘を言う相手は佐伯だ。多分。俺じゃない。
悔しいし情けなくて心の中で自嘲する。
あの二人は似せた見た目とは別に雰囲気が似ているし、華も理央や清水より佐伯の方が波長が合うんだろう。
俺だって華に頼られたいし我儘は何だって叶えてあげたいけど中々我儘を言ってくれないのは悩みの種の一つだ。
そんな事を考えていると父親と同じように母親も少し身を乗り出す。母親も、元々垂れ気味な眉をもっと下げている。
「あの子『迷惑』ってよく言ってない?」
「…あぁ〜…そう…ですね」
『迷惑』。確かに華は口癖のようにその単語をよく聞く気がする。
仕事が中断されたって別に何も迷惑じゃないし寧ろ俺は頼られてるって感じがして嬉しい。
普通に考えると迷惑だろうが、もっと振り回して欲しいくらい俺の世界は華が中心だ。
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