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そして遂にヒート予定日の前日、俺は合鍵を使って黒川さん宅に侵入していた。 「お邪魔しま〜す…」 中に入っても電気は付いていない。昨日から家主の黒川さんは本家にいるから。そして帰ってくる心配もない。 相変わらず綺麗にしてるな〜、と黒を基調としたリビングを通り過ぎて寝室へ直行する。 なぜ侵入しているのかというと、ちょっと寂しくなったからTシャツを一枚借りに来たのだ。 いや、Tシャツじゃなくてハンカチとかタオルでもいいんだけどね。Tシャツの方が大きいし、ぎゅってできるから。 「あった…」 クローゼットの中から黒いTシャツを一枚拝借する。 こんだけいっぱい同じのがあるんだから一枚無くなったくらいで気付かないだろう。 早く戻らないといけないのに、手に持っているとおもむろに嗅ぎたい欲が出てきた。 「…」 誰もいないのにリビングと寝室を繋ぐドアを閉めて、Tシャツの香りをそっと嗅いでみる。 でも『黒川さんの匂い』じゃなくて『黒川さんが使ってる柔軟剤の匂い』しかしなくて肩を落とした。 「まぁ…仕方ないか………って!良いのあるじゃん…」 諦めて寝室を出ようとした俺の目に入ったのは、ベッドヘッドに置かれた黒川さん愛用の香水。 ベッドに上がって香水をとる。 そして黒い瓶を持って迷わずTシャツに吹き掛けた。 …高そうだけど、俺がメンブレしない為に必要なので…すみません。 「はぁぁ〜良い匂い…………っ、うわ…」 フェロモンの香りはしないけど黒川さんっぽい匂いになったTシャツを持ち、今度こそ帰ろうとした時ベッドの柔らかさにバランスを崩し顔からぼすんとベッドに倒れる。 ぶわっと広がるダイレクトな『黒川さんの匂い』に身体の奥が、じくんと熱くなった。 …うわぁ…めちゃくちゃいい匂いする。 少しだけ、あと少しだけ、黒川さんの強い匂い嗅いで帰ろう。 「…変態くさいな…」 なんて独り言を呟いて目を閉じた俺は、この後とんでもなく後悔する事になる。

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