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いつでも side 黒川 廉
「はぁー」
仕事の区切りがついた所でぐーっと伸びをする。数年続けていればこの仕事にも大分慣れてきた。
俺の記憶はまだ戻らない。
親父も凛堂も白林も何も言わない。
番の事を忘れるなんて、とか、早く思い出せ、とか言われてもおかしくないのに。有り難いのか、自分は責められたいのか分からない。
「凛堂〜」
休憩ついでに同じ部屋で仕事をしていた凛堂に声をかける。
すると俺が何を聞きたいか察して手帳を開く凛堂。
「はい。本日のご予定はCM撮影です。その後は帰宅となっております…って、気になるならご自分でお聞きになられたら宜しいでしょう!」
眼鏡のブリッジを押し上げながら眉を吊り上げる。
今月になって凛堂が声を荒らげる回数が増えた気がした。
まぁ見てわかる通り俺のせいだ。
「…いや、変な別れ方したから、なんか…」
最後に会ったのは父さんの誕生日会。それ以来華とはもう数年会っていない。結局、華の事はよく分からないまま年月が経ってしまった。
番なら、目を覚ました時にすぐ言ってくれればまだ何か違っていたかもしれないのに、なんて今更言っても仕方がない。
近付きたいけど近寄り難い。でも何かあった時はすぐに助けたい。
そこで俺は凛堂に華のスケジュールを把握する様に言った。最近ファンが増えたって聞くし、何かあってからでは遅い。
華は俺の番だ。そして守る対象。
覚えていなくてもそれだけは変わらない。
家族の繋がりより強い『番』なんだ。
「…攫われても私は知りませんからね」
「はぁ?」
悶々としていた所に響く凛堂の声。
くるくる椅子で回っていたのを止めて焦る。
攫いそうな危険なファンも既にいるって事か?
「蘭さん、あの方、若と好みが似ていると私は思いますよ」
「はぁ?!」
なんで今 蘭が出てくる?
「はぁ、蘭さんと何も無くても今や人気モデルです…寵愛なされていたのに手の届かないお方に…って若…大丈夫ですか」
「蘭と…?いや…でも番は俺だし…」
凛堂の声なんかもう届かない。
そういえば蘭と華は部屋が隣だと凛堂から聞いた。
もしかしたら、もうそういう関係になっていたり…、と考えて目を閉じる。
気分が悪い。あいつは俺のだ。
二人ともリスクは理解しているはずだから有り得ない。
「さーて、仕事仕事」
この話はもう終わり、と再びデスクに向き直る。
凛堂はそんな俺を見て大袈裟に溜息をついた。
「はぁ…若!いつまでそうしているおつもりですか!!」
「俺だって、もうどうしたらいいか分からない」
華に会いたいけど、大人の俺じゃないから拒否されるのが怖い。
しかも蘭との可能性も出てきた。
明るくて軽い蘭と、比較的暗い方で重い俺。どちらを選ぶかなんて考えなくてもわかる。
無言になった俺を見て、凛堂は頭を下げ仕事に戻る。
本当にどうしたらいいかわからない。
こういう時、大人の俺はどうするのだろうか。
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