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運命と偶然
撮影から数ヶ月、今日は待ちに待ったCM放送日だ。
ここはある大通り。結構大きめな画面がついた商業施設があり、そこに俺たちが出る広告が映るらしい。
時刻は昼前。平日だが結構人はいる。
念の為、マスクと帽子を被って変装…まではいかないがあまり目立たないようにしていた。
こういうのちょっと芸能人っぽくて憧れてたから嬉しいかも。
「誰も見向きもしなかったらどうする?」
「…ちょっとショック」
俺のネガティブな返答に爽はハハっと笑うが、それ以降俺と同じように黙り込んだ。
爽もわりと緊張と不安が入り混じっているんだと思う。
「まぁ緊張せずにさ〜、俺はアレ好きだよ」
緊張する俺たちの後ろから肩を組んでくる白林さん。
白林さんにそう言ってもらえるだけで心強いけど、不安なもんは仕方ない。
「華くん、そんなに心配しないで。廉もきっと見てくれるよ」
力強い白林さんの言葉に頷く。
そうだ。成長した俺を廉さんに見てもらうんだ。
前の事を思い出してくれなくてもいい。ただ少しだけでも視界に入れれば…って感じ。
っていうか、もう何年も会ってないし、いっその事俺から連絡、…
「じっっ、時間っス!!」
上擦った爽の声に俺の思考はぶつりと途切れる。
視線を目の前の大画面に向ける。俺たちのCMはすぐに流れ始めた。最初から最後まで無音のCMが受け入れられるか不安だ。
待ち合わせをしていた人、歩いていた人、会話していた人が、無音になった大画面を不思議に思い見上げる。
「ね、見てあれ」
始まってすぐ。俺たちの近くで同じように画面を見上げていた大学生っぽい二人組の女の子。一人が隣に立っていたもう一人の子に声をかける。
「わー、かっこいい、誰?」
「わかんない、ブランドから調べよ。インスタあるかな?」
「あっ!あったかも!茶髪の方が華くんで黒髪が爽くんって名前らしい!フォローしとこ!」
爽と顔を合わせてニヤッと笑う。
もしかしなくても俺たちの事だ!!
_______________
CMが終わり、爽と再び顔を合わせる。
たった数十秒だったはずなのに何時間も流れていたような長さだった。
「ハー、やばかったな」
「すっっっげえ緊張した……」
ふぅーっと息を吐き出す。白林さんはそんな俺たちを見て軽く頭をぽんぽんしてくれた。
「周りの反応も良い感じだったね。二人ともいい仕事したよ。お祝いに昼どっか連れてってやる!白林さんの奢り」
「よっしゃー!華!どこにする?!」
「近くだと……おー、色々出てきたよ」
白林さんが候補を出してくれた。差し出されたスマホを爽と共に覗き込んであれやこれや議論する。
その時だった。
「おい!!!!」
少し遠くで聞こえる大きな声に三人で顔を上げ辺りを見回す。
聞こえてきたのは、
「そこを動くな!!!!!!!!!!」
どこかで聞いたことがあるセリフと、何年も聴いていなかった大好きな声。
「えっ…」
声の主が姿を現す。
高そうなスーツに、綺麗にセットされた黒い髪。
最後に見た時と何も変わっていない見た目。
「華っ!」
人混みを掻き分け走ってきたのは、黒川さんだった。
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