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2 side黒川 廉
平日の正午前、ここはちょっとした大通り。
「はぁっ…」
余りの人の多さに溜息をつく。
コーヒーを買ってくるように頼んだ部下が道に迷ったなんてほざくから俺が直々に迎えに来てやったのに、どこにもいない。ついでに今どこにいるかという連絡も来ない。
ここでまた動いて見つからないのも困るし、と立ち止まり部下からの連絡を待つ。
「はぁ…」
二度目の溜息。イライラを堪える俺の耳に飛び込んできたのは弾んだ女性の声だった。
「ねぇ!もうすぐだよ!カメラの準備してる?」
「やばい、どうしようあんな大画面に映るとか絶対ファン増えるよぉ…」
大の大人が何をそんなに…と視線を向けると、大人の女性だと思っていた人は学生だった。平日の昼間なのに学校は良いのだろうか。
「……」
キャッキャとはしゃぐ女子高生二人が構えるスマホの先には商業施設のビルについている大きな画面。
韓国アイドルのMVでも流れるのか?
それとも国内の男性アイドルグループ?どちらにせよ興味はない。
「──てかスマホ新しいのに変えた?」
「バレた?今日の綺麗に撮りたいしカメラの画質良いやつにしてみたんだ〜」
「………」
…興味はない…が、あまりにも熱心な様子に何が流れるのか気になってきた。
「待って、始まる、静かに」
「やば…」
片方の子の気迫に気圧され、つい自分まで息を飲む。
静かにスマホを構えた先を俺も追う。
「っ…」
始まったのはコマーシャルだった。
まず最初に映し出されたのはシンプルな英字のロゴ。
偶然にも優斗が絡んでいると聞いた化粧品のブランドのものだ。
次に画面に映ったのは綺麗な男二人。
見間違えるわけない、映っていたのは、華と、清水 爽だった。
CM撮影の事は聞いていたが、このブランドだったとか、放送日が今日からだとかは聞いていない。
「……」
BGMもナレーションもない。ただ二人が白い世界で唯一色をつけていた。口紅のPRなのか、華はコーラルピンクで清水爽はほぼ紫の赤黒いリップを塗っている。
その画面いっぱいに広がる輝きに目を奪われる。
決して派手な広告ではないのに。キラキラした宝石みたい、なんて陳腐な比喩では表せないくらい画面が『綺麗』で溢れていた。
「…──っ」
画面の中の華と目が合ったその瞬間、アスファルトに照りつける太陽の光が徐々に強くなり視界がどんどん白ける。
「…いっ、…」
周りの音が遠くなり、キーンと長く嫌な耳鳴りに思わず耳を押さえた。
あとからやってきた強い頭痛と共に、グラりと目眩がしてふらつく脚を踏ん張る。
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