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かたく閉じていた目を開けると、長い眠りから覚めたような、スッキリした変な感覚に襲われた。 「…?」 さっき、というか今、トラックに撥ね飛ばされて地べたに転がったはず。たしかものすごく全身が痛くて目を閉じた。 なのに、なぜか自分は立っている。 しかもどこにも怪我をしていないし、生きている。 「大画面の爽くんやばかった!!」 「華くん、…ほんとに綺麗…」 この不思議すぎる状況をなんとか理解しようとしていた俺の耳に飛び込んできた声。 『華』と『爽』、そう聞いて一番に思い浮かぶのは愛しい番とその親友。 声の主は華とそう年の変わらない女の子で、その子の視線を辿るとその先にあったのは大画面だった。 そのやけに大きい画面に映っているのは唇に色がついた華と清水。 少し見るのが遅く、すぐに画面が切り替わり次のCMが流れ出した。 「えっ?」 見間違えかと思ったが、俺が華を見間違えるわけない。 かなり雰囲気が変わっていたが、あれは華。 なんで華があそこに映ってるんだ? とりあえずこの色々おかしい状況を把握したい。 今一番頼れそうなのは優斗より凛堂だ。 すぐに凛堂へ電話をかける。 「凛堂?今どこだ?なんで華が映ってんだ?」 『驚かれました?』 「は?」 『はい?』 驚かれました?だって? 当たり前だろ今俺は全てに驚いているんだよ。 「いや、いや、…は?夢?」 『…はい?』 中々噛み合わない、というか伝わっていないというか…。 「まぁ、俺、死んだと思ったんだが、なんか変で、ここどこだよ」 『………』 いつも会話は即答の凛堂が珍しく長い時間黙る。 もう切って次は優斗に電話を掛けようとしたその瞬間、すうっと大きく息を吸い込む音がこっちまで聞こえてきた。 『若っ、あなたは4年程っ!高校生だったんですよ!4年経ったから成人してますが!!4年ですよ4年!!』 「……………?」 『あぁ〜、えぇ、つまり記憶喪失だったんです!!』 突然の大音量にスマホを耳から遠ざける。 きっと眉間に皺を寄せ、ズレてもいない眼鏡のブリッジを押し上げながら言っているんだろう。 それより……俺が4年間、記憶喪失だったって…本当か?

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