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走りにくい革靴で一歩を踏み出す。
そして糸を辿るように無我夢中で走った。
あの日のように、街中を埋め尽くす絡まった糸の群れ。
「はぁっ、はぁ」
着いたのはさっきいた場所とは比べ物にならない人数がいる大通りだった。
平日なのになんでこんなに人がいるんだ?
「…よし」
気合いを入れ直し、さっきより真っ直ぐになった糸の伸びる方へ人混みを掻き分け進む。
人にぶつかりながら前へ進む俺を睨んだり舌打ちをする人間なんか気にしない。いつもなら謝るが今はそんな場合じゃないんだ。
「!」
そして糸が強く張る。
その先に見覚えのある亜麻色のストレート髪の青年がいた。マスクと普段被らない帽子を身に付けていても見間違えない。あれは華だ。
隣にいるのは優斗と清水で、とりあえず俺の知っている人間な事に安堵する。
「華っ…華…」
中々思う通りに前に進めないのがもどかしい。
どうか逃げないで、二度と離さないから、また俺に捕まって欲しい。
「おい!!!」
新しく好きな人ができていても、もう一回チャンスをくれないか。
「そこを動くな!!!!!!!!!!」
息切れをしながらも腹の底から出した大声。
おもむろにこちらを向いた瞳はどんどん見開かれる。
記憶の中より少し背が伸びていて若干幼い雰囲気を残している華。
しかしどこか色気を含んだ立ち姿に、早く自分の腕の中に捕えなければと焦燥感に駆られた。
「華っ!!」
目をまん丸に開いたまま動かない華の右腕を掴む。
「廉、さん」
「ふぅっ、…華…華…探した…」
こんな息切れと焦った顔で格好つかないが、それでも何とか『全力で走ったけど余裕です』とでもいうような顔を心がける。
やっと捕まえた華は、前より大分痩せている気がした。
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