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双子 side 黒川 廉

足音に気付いた、玄関の前にしゃがみこんでいた男が嬉しそうにパッと顔を上げる。 「華!でん、わ、…」 そしてやってきたのが華ではないと気付くと表情を強ばらせた。 思わず足が止まる。 俺も自分の表情筋が強ばるのを感じた。 「廉か」 「…蘭」 ポツリと呟く男の顔は俺と瓜二つ。俺とそいつを見分けるのは、髪型か服を見るしかない。 似過ぎてもはやクローンではないかと言うほどだ。 「この階になんか用?」 「お前、華に何かしたか」 高校卒業と共に中国へ渡って音信不通だった双子の兄の蘭。数年ぶりに会って第一声がこれなのは申し訳ないと思う。 たった数メートルの距離でも詰めたくないと思うのは何故だろうか。 俺の記憶が元に戻ったのを察した蘭は立ち上がる。 「あぁ…いや、何も。てかこれからしようとしてた所」 へらっと笑いながら悪びれもなく言ってのける蘭に眉が寄る。これからしようとしてた?ふざけるのも大概にして欲しい。 「華は俺の運命の人だから」 「は?」 開いた口が塞がらないってのが本当起こるとは思わなかった。 運命の人? 華の運命の人は俺だ。糸だって繋がってたし。 「俺の赤い糸は確かに華と繋がってたんだよ」 そう言って蘭は自分の左手を見つめて優しく笑う。 赤い糸…それに蘭が見つめている左手…俺も左手の小指に巻き付いている糸が華と繋がっていたし…もしかして、見えるのか? 「華も見えてたぞ多分」 「そんな、わけ…」 「俺の手見ながら糸が…糸が…!って言ってた、確定だろ」 ありえない、とは言い切れない。 俺だって急に見えたんだから華だって見えるようになったのかもしれない。 でも認めるわけにはいかない。 「今日の昼頃、急に見えなくなってさ、華に確認しようと思って。でも電話繋がらないしインターホンでも出てこないし、華どこにいるか知ってる?」 「あいつはっ!華は俺のだ!」 一歩近付いてきた蘭から逃げるつもりはなかったのに、勝手に足が後退りする。 華は俺の番だと叫ぶように言った。 蘭へ向かって言ったが、半分は自分自身へ言い聞かせる為だ。そうでもしないと正気が保てない。 「落ち着けよ。一応俺とも繋がってたし華を4年間支えてきたのは俺だ。話しくらいさせろ」 「駄目に決まってる。二度と華の名前を呼ぶな、近付くな」 こっちは真剣に話しているのにどこか他人事の様に頷いている蘭。 その後、困った顔で苦笑いする顔にだんだんイライラしてくる。 自分と同じ顔だと思うと尚更イライラした。 「どけ」 玄関の前に立っている蘭を押し退け、借りた鍵で部屋に入る。 間取りは同じだったから寝室へは迷わず着けた。 リビングや廊下は至って普通のベージュ系の内装だったのに、何故か寝室だけ俺の部屋と同じように真っ黒だった。 ベッドも、横にある小さな棚も全く同じ。 もしかして、とその引き出しを開けると中に取りにきた物がちゃんとあった。 取り出して、横にあるベッドに腰掛ける。 「はぁ…」 吐き出した溜息は頼りなく震えていた。 蘭を前にすると自信がなくなる。 嫌いではないし、特別仲が悪い訳でもないが一緒にいると常に劣等感を刺激されている気がして落ち着かない。 確かに4年間、華を支えてきたのは蘭かもしれない。 4年間の間に2人が親しくなったのは俺のせいだ。 早く戻ってきて、そう言った華は今俺の帰りを待ち侘びているだろう。もしかしたら遅過ぎて追いかけて来るかもしれない。そうなると蘭と鉢合わせして最悪のパターンだ。 なのに数分間、力が抜けて寝室から出る事ができなかった。

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