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2 side金条 華

黒川さんが出て行ってから10分弱。 俺は黒川さんが脱ぎ捨てたスーツの上着を持ってリビングをウロウロしていた。 ど、どうしよう…廉さん戻ってこないじゃん。 まさか、また事故に遭ったりしてないよな? もうあんな日々を送りたくない。大きいベッドで寝ても隣は冷たいし、家が無駄に広いせいで孤独感がすごかった。一人になった家は朝でも暗い気がして、時々、琉唯くんの家に転がり込んでいたのを思い出す。 「落ち着け…落ち着け俺…マンションで何か起こるわけないだろ…」 大丈夫大丈夫、と唱えても嫌な不安が胸を渦巻く。 でも階段で下りて段差を踏み外し転がったら?また頭打っちゃうよ。 俺の事また忘れられたら今度こそ耐えられなくて自害しそうだ。 それかエレベーターで何かあった?緊急停止したとか? もしかして敵対してる極道が乗り込んできたとか? どこかと敵対してるとかは今の所、聞いてないけど…。 「帰ってこなかったらどうしよう」 ジャケットを抱き締めて思い切り嗅ぐと、ふわっと香水の匂いがして胸が切ない。 こんな風に待っていると、あの夏の日、いくら待っても廉さんは迎えに来てくれなくてそのまま遠くの人になってしまったのが、昨日のことの様に簡単に思い出せた。 「…はっ…はぁ…」 薄暗い廊下で赤く光る『手術中』という文字が頭に浮かび、理央の悲鳴に近い泣き声がまるで昨日の事の様にフラッシュバックする。 肺を押し潰されてそこを針で突かれているみたいに息がしづらくて痛くなった。 「はぁ…出るなって言われたけどなぁ…」 無理なもんは無理だ。 もう怒られてもいいから追いかけようと決め、迷路のような室内を抜け、玄関スペースまで小走りで向かう。 すると同時に玄関のドアが開いた。 「はっ!!」 「ただいま、…ってお前そんなとこで待ってたのか?」 ドアを開け俺を見るとすぐに手を伸ばしてくれる黒川さんに胸がきゅーんとなる。 「廉さん!!」 まるで数十年ぶりに再会したような勢いで靴下のまま広い玄関を走り、そのまま胸にダイブした。 廉さんは驚きの声を上げたが、しっかり抱き留めてくれる。 「何も無かったですか?怪我してない?」 「大丈夫、待たせてごめんな」 ペタペタ身体中を触る俺の頭を撫でる黒川さん。 怪我ひとつなく戻ってきてくれただけで充分だ。 わがまま言うと…もうちょっと早く帰ってきて欲しかったけど。

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