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くっつき虫
「もう今日しなくていいからずっとぎゅってしてたいです」
心配やら不安やらで興奮が治まってしまった。
ひしっと抱きついたまま伝える。もちろん匂いは嗅がせてもらってる。
「なんで」
黒川さんは少しムッとして体を離した。
微かに寄った眉は機嫌が良くは無さそうだけど、本気で怒ってる訳ではないっぽい。
あぁっと思いながら追い掛けるように腕を広げると、再び体が密着する。
握られた手の温もりを一秒たりとも離したくなかった。
廉さんの腕の中は、冬に入るコタツみたいな心地良さがある。
「ハグ嫌ならずっと手繋いでるだけでいいし、とにかく今日はもうどこにも行かないで」
さっきの10分程度で限界。
これからやっぱり仕事に戻る、なんて言われたら発狂しそうだ。この4年間で、精神面が強くなったのか弱くなったのか分からない。
自分がもう廉さん無しじゃ生きられなくなってそうで怖い。
「おねがい」
「わかった、一旦離れてくれ」
靴脱ぐから、と困ったように笑う廉さん。
悪いが、あまり見ない困った笑顔にキュンキュンしてしまう。
靴を脱ぎやすいように一旦ハグは止めて、すぐ側で待機する。
脱ぎ終わった後は、ぴったりくっついて廊下を歩いた。
また困ったように笑われたが、押されたりする事はなくて安心。
リビングに着きソファに座る。
二人とも部屋着に着替えて、再び廉さんにくっついた。
何となくテレビをつけ、サブスクで映画を選んでいる廉さん。
「何にする…あ、酒飲む?」
あっと思いついたように言われ、考える。
どの映画を観るか選んでいたと思ったが、違ったらしい。
酒、か。
あまりお酒にいい思い出はない。
「琉唯くんにもう二度と俺と呑みたくないって言われたんですよ」
「そんな酒癖悪い…って、飲んだ事あるのか?!」
「人並みに」
いきなり大きい声を出した廉さんは、ぐたっと俺に寄りかかってくる。
「初めての酒は俺が…俺が一緒に…」
一気に萎れた廉さんはぶつぶつと何かを言っているが、俺は初めて酒を飲んだ日の事を思い出していた。
あれは数年前のこと。俺と琉唯くんと爽と理央の4人で集まり、琉唯くんの部屋で酒盛りをしてそのまま雑魚寝した。
思い出せるのは、その次の日の朝。
見事に全員二日酔いし、頭を抑えながら起きた理央に、
『お前!これから自分が酔わない量を把握しとけ!』と言われてしまった。
だから、俺はお酒にあまりいい思い出はない。
あの後から、飲んでも寝れない時に少し嗜む程度にしたんだ。
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