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まさか笑い上戸とは…と頭を抱えそうになる俺。だが、そこを差し引いてもプラスになるほど、上機嫌な華の可愛さは宇宙一だ。
「えへっ、はぁ…あ〜…フフ…はぁ…」
華はというと、笑いきったのか笑みが引いている。すぐに、スン…とデフォルトの真顔に戻っていた。
そして俺を見ながら小さな声で呟く。
「…かっこいい…」
まるで恋する乙女のような声のトーンに気持ちが急浮上するが、誤魔化されてはいけないと気を引きしめた。
ここでなあなあにしてはいけない。何のために酔わせたと思っているんだ。
華の両肩を掴み、真正面からしっかりと目を合わせる。
「あのな?聞けるか?華の糸と蘭の、」
「ほんとに、本当に世界一かっこいい〜、…うぅ…」
俺の声を遮った華は、じわじわじわ…っ、とあっという間に涙目になり、とうとう涙をボロボロ流す。
「…ぅっ…うう…」
呻き声をあげた華は、ボックスティッシュから乱暴に数枚ティッシュを引き抜き、そのまま目元をゴシゴシ拭う。
笑った次は泣くのか…。そりゃ理央が面倒臭がる訳だ。
こんなんじゃまともに話もできない。酔わせたのは失敗だな。
「おい、やめろ」
さすがに痛いだろうと、華の手からティッシュを奪う。
新しいティッシュをしっかり折りたたみ、目元をタッチするように涙を拭いた。壊れ物を扱う様に、丁寧に丁寧に。
「かっこいい…俺、…廉さんの顔、大好きです…」
潤んだ瞳と目が合うと、ふにゃっと頬を緩めた華。
酒のせいもあると思うが、普段よりピンクになっている頬がかわいい。
顔を褒められもちろん悪い気はしないが、あまり嬉しくない。
顔なら、置き去りにしてきたあいつだって同じ顔だ。
「…ありがとうな…」
「もちろん、っ、顔だけじゃないんですけど、…ぅぅ」
嬉しい反面、そういう理由もあり、微妙な顔になってしまったのを酔っているなりに察したのか、すぐにフォローを入れてくる。
「ちゅーしたい…かも」
元々遠くない距離なのに、更に俺に近付きながら言った華に目眩がした。
控えめに傾けた頭と、滅多に見られない上目遣い。
以前より長めの前髪が少し目にかかり、本来の色気を助長している。
「ね、はやくちゅーしよ」
「…はあ」
可愛すぎて生きるのが辛い。溜め息がでる。
こんなにストレートに誘ってくるのは据え膳としか言い様がないが、酔っているのに事を進めていいのか足踏みだ。
とりあえず、いくらか細くなった身体を抱き寄せ首元で息を吸うと、いつもより強く香るフェロモンで肺が満たされる。
この時点で、俺の頭からは、蘭と華の関係の事なんかどこかへ飛んで行った。
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