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今すぐベッドに放り投げて一晩中かわいがりたい。
いや一晩中じゃ足りない。1週間くらいずっと触れていたい、そう思うほどだ。
「ちゅーする?」
「する!」
元気よく返事をした華の背後に、犬の尻尾が見えたような気がする。素直で可愛い。
頬を撫でると微笑む華。
この笑顔を他の誰かにも見せていたのだろうか。
緩く弧を描く目じりは見慣れなく、本当に華なのか疑いたくなるくらいに表情筋が豊かだ。まるでヒートの時のように。
そこで、はたと動きを止める。
「……」
「…?」
勘違いかと思ったが、やはりフェロモンの匂いが強い。
俺が息を吸う度、より強くなる甘い香りが肺を満たす。
「お前やっぱヒートか?!」
「は?ちがう!」
俺の腕をぺしぺし叩き、早くキスをしろとせがむ華。酔っているとはいえ頬が赤すぎる。
「華、スマホ貸して」
華の事だから、スケジュールアプリに次のヒートが始まる予定日くらい書いてあるだろうと予想。
スマホのパスワードはもちろん俺の誕生日で、難なくロックは解除。ニヤけるのを我慢した。
スケジュールを確認しながら、段々不機嫌になってきたむくれ顔にキスを一回。
「うふぅ」
満足そうに微笑む華のヒートは、まだ2週間先の予定だった。
もう二度と誰にも邪魔されないよう、スマホの電源を切る。
「…でもなぁ…」
酒だけのせいとは言い切れない華の変わり様に悩む。
ただ酔っているだけならいいが、ヒートとなると白林に連絡しなければならない。少なくとも5日は仕事ができないだろう。
ウンウン唸り悩んでいると、ドスッと抱き着いてきた華が耳元で呟く。
「廉さん、おれ、なんか…」
「ん?」
「久しぶりで、匂い…きもちい…」
はぁはぁと、先程より僅かに息を乱した華は、とうとう俺の膝に跨り、首元に鼻先を埋める。
視界が亜麻色でいっぱいになり、シャンプーでも香水でもない、華自身の香りで頭がクラクラする。
それと同時に、膝に乗る身体に前より骨を感じて、心臓を掴まれたように苦しくなった。
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