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第227話
早く戻さないと、…え、てか、ラットって治るもんなの?
頭の中が大混乱。でもこのままだと、確実に死んでしまう。何がって?言わずもがな、俺の腰。
「待ってぇ、駄目っ...廉さん、ッン、」
近づいてくる綺麗な顔を、手のひらでばちんと押える。
すると、それが不満だと言うように最奥を抉られ、身体が勝手にしなった。不可抗力で突き出した胸元を赤い舌が這うのを見て、下腹部に熱が溜まる。
今までも何度か激しく抱かれた事はあったが、それとは比べ物にならないくらい荒々しく行為が進んでいる気がした。
「…ッ……華、華……かわいい、ごめん…止まれない、」
「イっ…、っはァ、あっ、ああっ、痛っ!」
さっきまでイキすぎは辛いだろ〜とか言ってた癖に、途端に遠慮の無い律動のせいで呆気なく精を放ってしまった。
律動の合間に首筋や肩を噛まれ、快楽と苦痛に襲われる。
滲む涙を瞬きで散らして、大好きな黒い瞳を見つめた。
いつもと変わらない四年前と同じ瞳の中に、不安そうで、どこか嬉しそうな自分の顔が映る。
ヒートとラットが掛け合わされるとどうなるのだろうか。
ラットもヒートと同じく一週間続くのか、それとも数日なのか、はたまた数時間で終わるのか。何も分からない。何も知らない。勉強不足な自分を責めてしまう。
「あぅぅ、う、…ンっ」
鋭い犬歯で舌を甘噛みされ、このまま噛みちぎられそうだという恐怖。甘い痛さの中に隠れている微かな快感の間で身悶えるだけで、何も解決策が浮かばない。
お値段の可愛くないベッドが悲鳴を上げ、次第に俺の身体も悲鳴をあげる。
キスというより、最早喰われている様な状態。
数時間後、否、数十分後には骨だけになっているかも。
「ふふっ、なに」
痛がっている事に気付いているのかいないのか。身体中を咬みながら、時折まるでご機嫌取りをするようにふんわり優しい口付けが降ってきて思わず笑ってしまう。
髪に、額に、瞼に頬に。慈愛に満ちたそれは、四年分の空虚を埋めるのには充分だった。
痛くて怖くて、でもそれの何倍、何十倍も気持ちよくて幸せで。
俺の自由を奪っているのは廉さんなのに、眼差しが余りにも優しい。
もう、このまま最愛の人に壊されるなら本望な気もする。
「おい」
幸せな気持ちに包まれていると、他の事を考えるなと言わんばかりに顎を掴まれ唇を軽く食まれた。
シーツに手首を押さえ付けられ、空いた片手で髪を撫でられたりするが、俺もそろそろ廉さんに触れたい。
「廉、さん、っン、ぁ…っ…手離して、お願い」
懇願すると、案外あっさりと解放された手首。
久しぶりに自由になった両腕を、番の首へと回して引き寄せた。
一旦動くのを止めた廉さんは、大人しく抱き締められてくれる。ひたりと重なった肌から、どくどくどくとお互いの速い鼓動が響いて心地よい。
「廉さん」
「ん?」
返事があるのが嬉しくて、何度も何度も名前を呼ぶ。
廉さん、廉さん廉さん。俺の大切な大切な宝物。
すぅっと肌の匂いを嗅いで、その後強く香ってくるフェロモンに指先が震える。脳も、身体中も、幸福感で充たされ何も考えられない。
「廉さん、大好き」
身体を離し、僅かに上がった口角で見下ろしてくる。
ブラックダイヤモンドの様な瞳は、変わらず俺だけを映してくれる。
両手のひらで頬を包んで改めて伝えた。
「酷くしてごめん、……俺も、俺も華が好きだ」
かなり落ち着きを取り戻したらしい様子の廉さん。
先程とはうってかわって、ガラス細工にでも触れるような繊細な指先で耳朶をくすぐられ、頬を撫でられる。
「俺、今とても幸せです、……」
じわりと目頭が熱くなり、視界が滲む。溢れた涙はすぐに指先で拭われた。
こんな多幸感に包まれる事は、これから先にあるのだろうか。
幸せに形があるのなら、それは廉さんの形をしているに違いない。
肌によく馴染む温もりと、幾度と無い絶頂、そして何より安心感が一気に襲ってきて瞼が急激に重くなる。
「……華、おい……、おい」
「……ん……ぅん……」
ぺちぺち頬を痛くない程度に叩かれる。
なんでそんなに焦ってるの廉さん……俺はここにいるよ……。
「おいおいおいおい、華、寝るな、それは本当に駄目だって」
俺、頑張って良かったな。
また大好きな人に見つけてもらえた。
もう絶対絶対、離してやらない。ずっと一緒にいたい。
人生最後の瞬間まで、この人と共に時間を過ごしたい。
「……れん……ずっと……す……き………」
さっきから眠くて仕方が無い。
最後の最後に伝えないと、と声を絞り出す。
視界が暗闇に包まれ意識が完全に飛ぶ直前、呆れたような、そして俺が愛しくてたまらないといった廉さんの表情。
「あぁ……俺も好きだ。……愛してるよ」
あ、もしかして、いま愛してるって言ってくれた?
「……ふふ……うん……」
とろりと微睡む前に聴こえた、滅多に貰えない愛の言葉に胸が温かくなる。
ゆっくり廉さんがナカから出ていく感覚がして、一瞬あれ…?と思ったが強烈な眠気に逆らえない。そしてすぐに、前髪を掬われ、もう寝ろ、と、額に唇が触れる。
そうして俺は、四年ぶりに、やっと安心して目を閉じる事ができたのだった。
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