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【ま】た繰り返すだけの
ようやく再会出来た彼克哉とは、当然のようにすぐに同棲を始めた。
毎日が新鮮で、どこか懐かしくて、とにかく居心地が良くて。
“幸せ”って、こういう事を言うんだろうなぁと、不覚にも思ってしまうような毎日
…だった。
「今日、接待で遅くなる」
克哉が出掛けに言いだす。
「そうなんだ。帰り気を付けて」
「あぁ」
それだけ答えると、振り向きもせずさっさと会社に向かってしまう。
いってらっしゃいのキスも、おかえりのキスも、初めの1週間だけ。
あとは毎日生活に追われるように、ただ役割分担をして、それをこなして行くだけの日々に変わって行った。
これが『マンネリ』ってやつか?などと思いながら、自分も出社する。
一日の仕事を終えて家に帰ると、自分の分の夕食を作り、一人で食べ、ソファでぼんやりとTVを眺める。こんな日が、少しずつ増えて行っている気がする。
もちろん仕事が大事なのは分かっているつもりだし、忙しいのも分かっているけど、これでは一人暮らししているのと何も変わらない。
帰って来ても疲れてすぐ寝てしまう克哉を、無理矢理起こす気も無いし、疲れているなら休ませたいと思う、だからスーツのままベッドに倒れ込む克哉の服を脱がしてハンガーに掛けるのも僕の役目だとも思うけれど…。
時々、自分がただの家政婦になった気分になるのは、何故だろう?
何かが、満たされないで居た。
そこまで考えてハッとする。
克哉と再会した時には『隣に居られれば良い』と思っていたのに、今はそれ以上を望んでいる。
自分の欲深さに嫌気が差した。
「はぁ…」
一つ、ため息を零した所へ、ふいに声を掛けられる。
「何、ため息吐いてんの」
考え事をしていたせいか、克哉が帰った事に気が付かなかったみたいだ。
「うぉ…ぉかえり」
変な声を出してしまう。
「うぉって何。うぉって」
酔ってはいるが、なんだか不機嫌な表情のまま、僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「何すんだよ!」
嫌がる僕を無視して、ソファの背もたれから身を乗り出し、そのままズルリと身体ごと僕の上に圧し掛かって来る。
「おぉ~もぉ~い~」
相変わらず僕の抵抗は無視して、今度は両手で顔を挟まれ、ジッと顔を見つめられる。
「面白くねぇ」
「は?」
さっきよりも更に表情を不機嫌にしているせいで、だいぶ口唇が突き出ている。
その膨れた表情のまま、一度ちゅっとキスをされる。
「あぁクソ!可愛いな」
なんだかつじつまの合わない事を呟いてから、ようやく身を起こすと、隣合ったまま手を握る。
「なんでため息吐いてんだ。」
そう一言呟いてから、更に言葉を続ける。
「言いたい事があんなら、ちゃんと言ってくんなきゃ分かんねーだろぅが。
俺はエスパーじゃねーからお前が何考えてっか分かんねーし、お前もいつも我慢しすぎる。
だから あん時、うまく行かなかったんだろ?」
そこまで言われて、克哉がちゃんと自分を見てくれていた事に気付く。
あぁ、僕だ。僕が勝手に思い込んで、思い悩んで、勝手に落ち込んで…
元凶は、僕自身にあったのだと理解した途端、克哉の愛情が素直に心に流れ込んで来て、その暖かさに凍っていた心が溶かされて、
それがそのまま涙となって零れ出た。
「ほらな。我慢してたんだろ?言いたい事はちゃんと吐き出せ!
俺、もう二度とお前と離れんの嫌だかんな」
そう言って僕の涙を拭ってくれる。
こんなに愛されてたのに、自分勝手に思い悩んで、ちょっとしたため息にこんなに優しくしてくれる克哉に申し訳なくて、何も言えなくなる。
「…んでも、…ぃ…」
「うん?」
「なんでもない、って言ったんだよ。なんかもう、自分の小ささにガッカリしただけ」
それで克哉が納得してくれたかどうかは分からないけど、キスして誤魔化した。
「…本当だな?」
まだ少し納得してないようだったが、笑顔で頷く僕に、ようやく表情を和らげてくれた。
「マジで…俺、ビックリしたんだからな。雰囲気暗かったから」
言いながら、優しく抱きしめてくれる。
克哉をこんなに不安にさせてしまっていた事に申し訳なく思い、ほんの少し、我儘を言ってみる
「ゴメン…じゃ、1個だけ、お願い」
「うぉ。いきなり来た。…何?」
抱き合ったまま小さく肩を揺らした克哉を愛おしく思い、笑みが零れる。
「1日1回、必ずハグして」
僕の細やかな願いを聞いて、克哉の腕に力が籠った。
「…バッカじゃねーの」
言いながらまた、ソファに押し倒される。
「寂しい思いさせて、ごめん。愛してっから。
お前だけだから」
―自分が、溶けて消えてしまうかと思ったー
一番欲しかった言葉を貰えて、さっきまでの寂しい気持ちはどこかへ消え去ってしまった。
本当、自分がこんなに現金なヤツだったなんて、今まで知らなかった。
こんな僕が、こんなに想われてて良いんだろうか。いつか罰が当たるんじゃないか、とすら思い始めた時、克哉からのキスが落とされる。
いつも以上に深い口付けに、息をするのも忘れた。
「ん、ンン…」
痺れるような快感は、あっけなく僕の全身を貫く。いや、もしかしたらもう、克哉に触れられた時点で、とろとろに蕩けてしまっていたのかもしれない。
僕の身体はもう、克哉が居なければ生きていられない身体だから…。
口の中で厭らしく蠢く舌の動きに答えたくて、僕も同じように舌を動かす。
「ん…ッ」
それに反応するように、克哉が吐息を漏らす。
ゆっくりと口唇を離すが、名残り惜しそうに舌はまだ触れ合っていた。
舌も離れて行くと、今度は絡み合っていた唾液が、二人の間を繋いでいた。
「おン前…いつからそんなにエロくなったの?」
上気した顔なのに眉尻を下げて、まるで困ったような表情をする克哉が可愛くて可愛くて、ほんの少しでも嫌な思いをさせたくないと、心から思う。
「再会してから、だよ」
嘘のような本音を呟くと、今度は自分から口付ける。
そのままの状態で、自分から克哉の服を剥ぎ取ると、手探りで突起を見つけ、刺激する。
「ン…んン」
克哉が小さく震えて、感じてくれているという喜びが、僕の心を支配した。
が、それも束の間で、アッと言う間に形勢を逆転されてしまい、いつの間に脱がされたのか、胸の突起を吸い上げられ、空いた右手で、僕の自身を扱かれる。
「ひゃ…ぁん、ン」
一度に訪れる快楽は、簡単に僕から理性を奪って行く。
それでも厭らしい水音は、容赦なく僕の耳にそれを届け、僕はまた羞恥に身を捩った。
それが嬉しいのか、克哉の動きは激しさを増し、僕は克哉の手の中へと迸りを吐き出してしまう。
それをそのまま潤滑材にして、今度は僕の秘所を刺激し始める。
「あン。んン。は…あぁ…」
自身の時とは違う快感が体中を駆け巡り、克哉の訪れを期待して、身体が勝手に打ち震える。
「…欲しい?」
意地悪に焦らす克哉の声が、鼓膜を揺らす。
「ほ…しい。早く…挿れて…」
もう泣いてしましそうな声で、克哉に懇願すると、満足したような笑みを浮かべて、入口にあてがう。
「本当、エロくなったって言うか、素直になったって言うか」
呟くような小さな声でそれだけ言うと、一気に根元まで押し込んで来る。
「は!あ、あぁ…ンン!!」
僕の中を確認するかのように、先端から根元までを何度も何度も擦り付けてから、今度は小刻みに打ち付けて来る。
厭らしい水音と、どちらの物か分からない荒い息使いが途切れる時、彼の迸りと共に快楽と幸福の両方が僕の中を満たして行った…
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翌日もまた、僕は変わらず玄関で克哉を見送る。
「今日は定時で帰れると思う」
靴べらで靴を履きながら、背中を向けたままの克哉が言う。
「分かった。ご飯作って待ってる。」
それを気にせず僕が答えると、ふいに克哉が振り返り、キスをする。
「え」
その事に驚いていると、克哉がニヤリと口角を上げて言った。
「またお前に寂しい思いはさせたくねぇ。そんな事を繰り返すだけの関係なんか、哀しいだけだもんな。俺達は、そうはならない。約束する」
照れているのか、『じゃ』とだけ言って今日も克哉は会社へ向かった。
僕も準備をしなきゃならないのに、緩んだ顔が戻らなくて、心底困って玄関から動けずに居た。
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