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第4話
「なつ先輩!お帰りなさい!」
「にゃ~ん。」
「にゃん吉!只今〜。可愛い可愛い、もふもふにゃん吉〜。と、ごん。」
俺が帰宅するとごんが無い尻尾を振りながら出迎えた。その手にはごんの飼い猫のにゃん吉もいる。あの後、俺の身を案じるごんに提案され、俺たちは不本意ながらも一緒に暮らしている。
「…なつ先輩、にゃん吉にセクハラは辞めて下さい。」
ごんが不満気ににゃん吉を俺から遠ざけた。
「ていうか、なつ先輩!なんで飲み会なんか行くんですか!危ないのにー。」
「別に、他人であるごんにそこまで干渉される筋合いないし〜。」
「…。」
完璧な酔っ払いの俺は、へらへらとごんの言葉を跳ね除けた。ごんの瞳の温度が冷えた気がしたが、俺はそんな事に構わず風呂へ向かう。
「じゃあ、なつ先輩〜、脱ぎ脱ぎしましょうね〜!」
「は⁈あ、あれ?ごん?」
何故かニコニコとしたごんがまだ俺の後ろにいた。酔いでぼやけた思考ながら、俺は戸惑う。
あれ?何故いる?
「なつ先輩、洗ってあげます。」
「え、あ、ちょっ、まてっ!」
ふらふらの体ではろくな抵抗も出来ない。ごんは俺の服を手際よく脱がせ、何故か自分も脱いだ。そして半ば俺を引きずるようにして浴室に入る。
「なつ先輩〜ほら、ほらほら!綺麗綺麗しましょ〜。」
「あっ、…やっ」
小馬鹿にしたような話し方で、ごんは石鹸の泡がついた手を俺の地肌に滑らせた。擽ったくて、身を捩る。
「ダメですよ〜?なつ先輩。逃れませんよ〜?」
「ちょっ、さ、…っ、さっきは悪かったって!」
逃げ惑いすっかり浴室の隅に追いやられ壁に張り付く俺を、ごんが後ろから抱えるようにしてぬるぬると洗う。ぬるついた手が乳首を掠め、俺はびくりと震える。
「…そういえば、なつ先輩って、彼女いた事あったんですか?」
「え?あっ…ふっ、う、んっ…うん、あるけど?…っだから、やめろって!」
「…ふーん…。やりました?」
「は?…あっ、…っ何?」
「えっちしました?」
「そりゃ…っあるけど…。擽ったいって!」
「へー…。」
すっかり酔いが覚めた俺は、ごんの手を叩き落とそうと葛藤しながらおざなりに答えた。しかし何処となく、ごんの声色が不機嫌になるのを感じる。それから俺の頭も洗い終え、やっと気が済んだらしい。ごんは俺の体の泡をシャワーで流した。
「よし。」
「もう気が済んだか⁈俺もさっきは酔ってて悪かった!ほら、ごんはもう先に上がってていいから!」
俺はごんを追い払うように、必死に手を振った。
「……必死ですね〜。」
「だ、だって、もう…洗ったし…。」
「ふふふ…。」
ごんが含み笑いで俺に近づく。俺はもうそれ以上逃げられないのに、更に浴槽にしがみついた。
「なんだよ!あ、あっちいけ…!」
「ふふ。」
そしてごんがぴたりと背後にくっついた。
あ、やば…。見られる!
「そんなこと言うのは、これ、見られたくないからですか?」
「うっ。」
ごんがこれというのは、俺の下半身だ。ごんに洗われて、すっかり元気になっている。
「ねぇ、なつ先輩…そろそろ…欲しいんじゃないですか?」
「…っ!」
ごんが後ろからぎゅっと俺に抱きつき囁いた。その声は先ほどと違い艶っぽい。
「…ふっ…や、やめろ…。」
俺は僅かに震えながら頭を振った。
ごんが最初に言った通り、天使の精は麻薬だった。行為をしても数日経つと、欲しく欲しくて堪らなくなる。何とか抑え込むが、こうやってごんに触られると一気に乾きが加速する。
耐えないと、耐えないと、耐えないと…。いつもの呪文を心の中で唱える。
「…ふーん。」
「…っ、な、んだよ…。離せ…。」
ごんは虚勢をはる俺の顔を覗き込み、その目を懐疑的に細めた。
「本当?」
「ふっ…っ!」
ごんが俺の下腹をやわやわと撫でる。それだけで、俺のものは期待して硬さを増す。
まずいまずい!嫌だ…。耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ!
ドクドクと体に血が回り心拍が上がる。はぁはぁと餌を前にした犬のように、呼吸が上がる。盗み見たごんのものも主張しており、それを見ると更なる飢餓感に襲われる。極上の餌を目の前にした犬。砂漠で見つけた冷えた水。
「ねぇ、なつ先輩…。」
ごんが俺の耳元で再び囁き、俺はまたビクリと震える。
「あっ…。」
「欲しくないの?」
ふぅと、ごんの息が耳にかかる。
「…っ、ご、ごん…あ、」
「ん?」
ごんが目を細め、小首を傾げた。
「ごめっ…ほ………欲しい…。」
「…ふふっ。」
俺のもの欲し気な顔を見て、ごんが笑った。
「可愛い。」
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