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第5話
気持ち良い。気持ち良い。いやいや、こんなのダメ。うぅっ、なのに…気持ち良い…。
「…っ、ん、やだっ…!」
「はっ、嘘。なつ先輩、さっきからすっごい顔していますよ?はぁ…可愛い。」
ごんと俺は正常位で行為に及んでいた。
「しっ、…っ、してない゛っ!嫌だっ。…っ!」
「えー、じゃぁ、もうあーげない。」
「あっ。」
ごんはそう言うと、ずるりと俺から自身を抜いた。俺は謎の喪失感に思わず残念そうな声を上げてしまた。その声を聞きごんが笑みを深める。
「なつ先輩、ほら、入れたくない?」
「…。」
ごんはベッドに座り、にやりと笑った。俺はおろおろと視線を迷わす。欲しい。でも、そんな。そんなの俺じゃない。違う。…けど…。ごんのを見ていると、何故か口の中に涎が溢れる。
「なつ先輩、欲しいなら自分で乗って、入れて、動いてよ。」
俺は生唾をごくりと飲んだ。
「ふふっ。」
結局、欲望に負けた。俺はおずおずと四つん這いでごんに近づき、ごんのものに手を伸ばした。
「…ふっ、んんっ!み、見るなっ!」
「だーめ。」
そしてごんのものを手に持ち、ゆっくりと腰を落とす。ごんのものが中に入ると、それだけで強烈な快楽が再び襲ってくる。そして欲望のまま上下する。
「あっ、だ、…ふっっ!きっ…!」
「き?」
気持ちいい。貪欲に精を貪りながら思わず漏れそうになった言葉を飲み込む。しかしごんは目ざとくそのことに気づき聞き返してくる。俺は思わず唇を噛んだ。
「…っ、ふっ!~っ!」
「ふふ、なつ先輩、ドライでイっちゃいました?」
「はぁっ…っ!」
「今までなつ先輩がえっちしてきた女みたいに…。」
俺は答える余裕もなく、動きを止めごんにしがみついた。何も言わなくても、それが答えだった。
「あー、もう!なつ先輩!可愛い!なつ先輩は、俺の女の子だから、恥ずかしがらなくていいのに…。」
「…ふっ」
ごんは俺をぎゅっと抱きしめ、キスをした。甘い。くちゅりと音がして、その音の響きすら腰に甘く響く。
「俺だけの、女の子…。でも、」
「んっ、あ、…っ!」
ごんは追いすがる俺の舌から強引に唇を離し、意地悪に笑ったかと思うと急に俺の腰を掴み動かす。
「俺が出さないと、なつ先輩はいつまでたっても治まらないんですよ?」
「~~っ!…っ、はぁっ!あっ、や゛っ、まっ!~っ!」
そうだ。それが辛い。
ごんが出すまで、俺に精をくれるまでどれだけやってもこの乾きは治まらない。俺はごんに揺さぶられながら、またびくりと大きく震えた。
あー、本当、最悪だ。
_______________
「なつ先輩、大丈夫ですか?」
行為の後、男ならある賢者タイム。俺のはちょとまた複雑で、それは後悔の時間だ。
ごんが眉を下げ心配そうに俺の顔を覗き込んで来る。
「…。」
大体、普段はこんな忠犬で可愛い後輩なのに、なんで行為中のこいつは謎のSっ気キャラなの?
あー、もう…。
「よく分からない。」
俺はぱたんとベッドに倒れ込んだ。
なぜ俺はあの時、不用心にも喫煙所から覗きに行ったのだろうか。なぜもっと上手く逃げ出せなかったのだろうか。なぜ、なぜ、なぜ…。
後悔が後を絶たない。
「なつ先輩。」
「なん…わっ!」
呼ばれて再び目をごんに向けると、ごんの背にまた羽が生えていた。
「ごん?」
「ちょっと、抱えますね。」
ごんは俺を安心させるように柔らかいほほ笑みを浮かべてそういった。しかし俺の頭には?が浮かぶ。
「え?うわっ!」
何の事かと俺が思案する間もなく、ごんは俺を抱え上げる。そして窓から外に飛び出した。俺は落ちそうになり必死にごんにしがみついた。風がびゅうびゅうと頬にあたる。ごんがバサバサと羽を動かす音がした。
「先輩、もう目を開けて大丈夫ですよ。」
「?…わ。」
暫くの間そうした後、ごんが声をかけてきた。閉じていた目を開けた俺は、目前の景色に息を飲む。
「き、れい…。」
ごんが連れて来てくれたのは、電波塔の上だった。眼下には眩くキラキラと光る夜景が広がる。上から見るとそれらはとても小さく、地平線の奥まで続き、まさに光の海を見下ろしている様だった。ごんが、口をポカンと開けて景色を眺める俺を後ろから抱きしめた。そしてそのまま電波塔の鉄骨に腰かけた。
「…なつ先輩、こんな事になってごめんなさい。」
ごんがぽつりと、呟く様に話し始めた。ふと見上げた顔は、いつもの子供の様なキラキラした目が弱々しく揺れていた。
「なつ先輩…。」
ごんが開きかけた口を1度きゅっと閉じ、意を決した様に再び話始めた。
「俺、先輩の事が好きです。」
「…。」
真っ直ぐと俺を見つめてごんは言った。
ああ…やっぱり…。
改めて宣言されて、俺の心の中に後ろめたい感情がぐるぐると渦巻く。
「だからあの時、倒れている先輩を見つけて、キスをして天使の精を送らなきゃって時、何処かでその状況を嬉しいと思う自分が居ました。本当はこんな事…絶対になつ先輩を巻き込みたくなかったし、なつ先輩を俺が苦しめる事になるって分かっていたのに。」
俺が何も言葉を返せないでいると、ごんは続けて話した。俺は意識が暗闇に包まれている時に聞いた、苦しげなごんの声を思い出していた。きっとあの時もごんはこんな顔をしていたのだろう。
「俺は天使だから…、正体を知られたら別れなければならない。だから、ただ、傍に居られるだけで良いと思うようにしていたのに。」
ごんが苦し気に目を伏せた。
「傍で、出来るだけ長い間、先輩の笑顔を見られるだけで良かったのに…。」
ごんの懺悔ともとれる言葉に、俺は自分の胸からきゅうっと言う不思議な音がした気がした。
そんな顔…するなよ…。させたくない。
「案の定、あの事件の後先輩はキツそうで。その原因は俺だって分かりきっているのに…。それでもやっぱり、一番近くに居られることが嬉しくて嬉しく…。これって凄く独りよがりですよね…。本当に、ごめんなさい…。…なつ先輩…ごめんなさい…。」
俺はごんに手を伸ばしかけて、止めた。
今、俺がごんになんて言えるのだ…。俺は、ごんを愛してはいない。
「…ごめんなさい…。」
「…。」
が、結局手を伸ばし、がしがしとのごんの頭を撫でた。
だめだ。突き放せない。
「…はぁ、ごん…。俺たちはもっと歩み寄って、理解しあって、お互いに前向きになる必要があるな。」
どこかやはり後ろめたく、俺はごんから目を逸らしたがごんに向けて話した。
「せんぱ…!」
それを聞きごんは嬉しそうにキラキラと純な目を俺に向けた。
うぅ、その純な瞳が、辛い。
「…でも…俺がごんを好きとか、どうとかは…、まだ考えさせてくれよ。ごめん…。」
俺の言葉にごんはこくこくと頷く。
はぁ…。本当は、どう考えたって、俺がごんを恋愛対象として愛することなどでできないだろう。だけどこの状況でごんにそこまではっきり言う事は酷だと感じた。
「ごん、一緒に考えてやってこうぜ。色々、さ。」
「…ふっ…、なつ先輩…。」
ごんが俺の肩に顔を埋めて震える声で俺を呼んだ。
「もう、泣くなよ。ごん。」
俺はよしよしとごんの頭を撫でた。
「うぅ、泣いていません…。」
「はは、ほんと…」
ごんが顔を上げる。
「っ!」
俺はその顔を見て、目を見開いた。ごんの瞳が赤い。真っ赤な双眼だ。それは、いつか、何処かで…。
「ご、ごん…。」
「はい?」
ごんは俺の問いかけに鼻をすすりながら、まるで泣き笑いのような顔で返事をした。
「天使の目も、赤いのか?」
「…。」
え?
俺の質問にごんが一瞬固まった気がした。泣き笑いの顔のその表情のまま、バグった映像の様に動きがフリーズする。俺は目をしばたたかせた。
何?見間違いか?
「…はは、なつ先輩、何の話ですか?」
「あ、いや…。」
ごんが笑って首を傾げた。瞬きをする間に、ゴンの目はいつもの明るい茶色になっていた。
やっぱり見間違いか。座っている鉄骨が赤いから、それが反射して赤く見えたのかな。しかもあの目は半ば俺のトラウマになりかけているから、見間違えても仕方ないよな…。
「なつ先輩、次は俺、なつ先輩に星空を見せに連れて行きます。」
「ははっ、楽しみだな。」
ごんが俺の首筋に頭を擦り付ける。甘える様な仕草が擽ったい。俺は少し笑った。
それからは少しだけ、ごんとの生活の苦痛が和らいだ。まだ行為は慣れないし、自己嫌悪も感じてしまうが。前向きを心掛けた。
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