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第8話
「なつ先輩〜!ちゅーしてぇー!ちゅー!」
「…する訳ないだろ。こら、ごん!にゃん吉を押すな!」
会社からの帰宅後、夕食も終えソファで隣に寝ているにゃん吉を撫でていると、ごんがにゃん吉と張り合うように身を摺り寄せてくる。
「にゃん吉~、お前、ご主人様を差し置いて美味しい思いするなよ。」
「…。」
ごんはにゃん吉を睨むが、にゃん吉はどこ吹く風で大きな欠伸をしていた。ごん…猫に負けているよな。
「…なぁ、ごんはどうやって悪魔を見付けるんだ?」
「え?それは…なんとなくだからなぁ…。」
やはりか。天使と言っても、案外適当な奴らだ。
「あっ、そういえば、俺、一人、悪魔っぽいやつ見つけましたよ。」
「え!」
ごんは思いついたように話し始めた。
「俺と入社年度が同じ、佐倉です。」
「!」
俺は目を見開く。佐倉は天使の精は確かに持っていたが、羽を見ていないから何とも言えない。悪魔っぽいという言葉も、佐倉にはしっくりくる。
しかし…なぁ?
「先輩も知っていますよね?あいつよく先輩に絡んでくるし、雰囲気もまさに悪魔って感じですし。そもそも、先輩が最初に襲われた日、俺、会社の最寄り駅で佐倉と会ったんですよね…。」
確かに、あの日は俺も佐倉に会った。
「で、でも佐倉は…案外、結構…良い奴だろ…?」
それに佐倉に会ったのは朝で、俺が襲われたのは夜だ。時間が空きすぎだろう。
そうだろう…?
「…そうですか?」
俺の反応が意外だったのか、ごんはぴくりと片眉を上げた。
「佐倉は…違うんじゃないか…?俺は、いい奴だと思わないことも…ないぞ?」
「…はは。」
はは?
「!」
ごんが乾いた笑いを漏らしたかと思うと、急にソファに座る俺の上に乗り上げ噛みつくようなキスをした。ソファが大きく揺れ、にゃん吉が不満気に喉を鳴らしてソファから降り寝室へ去っていく。
「なつ先輩…やらせて?」
「…っ!ごんっ、ちょ、なに、急に…やめろって!…っ。」
ちゅっちゅっとキスを落とし、ごんは性急な動作で俺のシャツのボタンを外す。
「悪魔探しなんて…そんな危ない事、先輩にさせられないですよ…。」
俺はごんを押し返すが、ごんは俺の顔をこさえ込み、強引に口づけて甘い精を目いっぱいに注ぐ。アルコールが回る様に、じわりと侵食されてわ理性がぐらぐらと揺らぐ。
ごん、わざと、精を送りこんでいるな。
「…ふっ、ご……‼」
「それに、他の男の事をそんな風に言うの、ムカつきます。」
「はぁ⁉…ふっ、そんな意味じゃ…あっ、」
ごんは俺の静止を無視して腕を抑え込み、俺をソファに押し倒す。そして膝で俺のものを刺激してくる。変な声が出てしまい、俺は慌てて歯を噛み締めた。
「…っ、…ふぅっ…。」
俺の腰が砕け動けなくなると、ごんは俺の地肌に舌を這わす。そして俺と目が合うとべっと舌を出したまま、にっと笑った。
「!」
俺はごんの舌を凝視して固まる。
舌にちらりと見えのは、星型か?
「ごん、お前の舌の…星型の痣?」
ごんが俺の言葉にぴたりと動きを止めた。俺はごんの次の言葉を息をのみ待つ。
「…ふっ、違いますよ?」
しかし返ってきたのは存外明るい声色だ。
「この前、間違って噛んでしまって…ただの血豆です。」
そういってごんはべっと舌を出した。確かに、よく見ると唯の血豆だ。
「そうか…。」
「…。」
俺はほっと胸を撫でおろす。そしてふと視線を感じて目線を向けると、まだごんが俺をじっと見降ろしていた。
「ごん?」
「…ふふっ。」
ごんが俺を見下ろして笑う。歪んだ口元。それは何処となく含みのある、嫌な笑いだった。
結局はっきりしたことは、俺が心の奥では佐倉の事も、ごんのことも、まだ信じきれていないということだった。信じたいし、二人のどちらかが俺を殺そうとしているなんて考えたくもない。しかし、どちらも嘘をついている気がする。
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