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第9話

「皆さん、これから遊園地に入ります。中では自由行動ですが、15時に再度集合して…」 「なつ先輩~、最初何乗ります?」 「そうだなぁ…。」 今日から一泊二日の社員旅行だ。遊園地に皆で行った後、泊まるホテルに向かう予定になっていた。ごんと俺は遊園地の地図を見ながら人の流れにのって歩いた。 「あ、これとかイチオシだって。」 「…なつ先輩、絶叫系好きですか?」 俺が選んだのは野外の巨大なアトラクションで、座った座席が上層し、50メートルの上空から垂直落下するというものだ。 「んー、前は苦手だったけど…久ぶりだから人気なのに乗っておこうかなと。」 「そうですか…。」 やはり人気のアトラクション、それから数十分並びようやく俺たちの順番が回ってきた。 「…おお。久しぶりだし、年も取ったから行けるかと思ったが、やっぱり怖そうだな…。」 「やめます?今なら未だ出られますよ?」 「いや…。大丈夫…。」 ごんにも付き合わせて長い時間並んだのだ。俺はごんの申し出を断ってしまった。座席に座るとぐっとシートベルトとバーで体を固定される。 …この厳重さが余計怖いんだよな…。 座って間もなく、ぐんと体が引き上げられ妙な浮遊感が俺を襲う。 「…っ!」 俺は顔を引きつらせ、ぎゅっとバーを握った。 こ、こわ…。そうだよ!やっぱり俺は、絶叫系がダメなんだ! 「…ははっ、なつ先輩、やっぱり絶叫系ダメなんじゃないですか。」 「んっ。」 ごんの軽口に反応も出来ず、半ば無視をして目を瞑った。 「!」 すると俺の手が一回り大きい手に包まれる。俺は、あっと、その手の主を見上げた。 「先輩、俺は平気だから、安心して俺に掴まっていて下さい。」 ごんがふふっと軽やかに笑った。別にごんに掴まっても落ちるものは落ちる。しかしごんの優しい笑顔に、俺は体の力が不思議と抜けるのを感じた。 「…ふっ!」 「…。」 そうこうしているうちに、座席はどうやら頂上に辿り着いたようだ。かくん。頂上で座席が一度止まり、体が空へ放り出された様な妙な浮遊感に襲われた。 「ほら、なつ先輩、綺麗な景色。目を開けて見て下さい。」 「…あ、本当に…。」 ごんの穏やかな声に誘われ、俺は落ち着きを取り戻して瞑っていた目を開けた。…綺麗。地平線の奥には鮮やかなグリーンの山々が見える。視線を少し下げると、遊園地の風船やメリーゴーランドがゆらゆらと揺れるカラフルな世界が広がっていた。目を瞑っていたら気づかなかった、鮮やかで綺麗な世界。 「!」 そして、落ちる。落ちる時はやはり怖かったが、景色を堪能出来たからかいつとより楽しかった。 「ありがとうございましたー!安全バーが上がるまで、座ってお待ち下さい!」 係員がニコニコと近寄り、座席のバーをあげてまわる。 「ふー!なんか、いつもより楽しかった!なぁ、ごん!」 俺は乗り切ったという達成感と、いつもより楽しめた充実感に溢れて隣の席のごんに笑顔で声をかけた。 「…それは…良かった…です…。」 しかし対するごんの反応は微妙なものだった。 「ごん?」 ごんはふらふらと少し震えながら座席から立ち上がる。 …え?何。もしかして…。 「…ごん、本当は絶叫系かなり苦手なんじゃ…?」 「そん、な…わ、わけないです。全然、苦手じゃないです。」 ごんはふらふらと壁に手をついた。 いや、嘘やん。 「そんな真っ青な顔で言っても説得力ないぞ…。」 「…あ、あはは…バレちゃいました…?」 ごんは俺の問いかけに気まず気に笑った。 「まじか…。逆に凄いな、それで乗ってる時にはあんなに平気なふりしていたのか。」 その言葉を聞くや、ごんはふいっと微に俺から視線を逸らした。 「…だ…だって、先輩には…いつでもカッコよく見られたいし…です。」 逸らしても見える。ごんの耳は真っ赤だった。 「…………ぷ。ふっ、ふふふふっ、あはははは!」 俺は思わず吹き出して笑った。 ごん、可愛いとこあるな! 俺にはごんが幼い子供の様に見えて可愛く見えた。 「あー!なつ先輩酷いっ!笑った!…カッコ悪いとか、情けないとか思いました?」 「いやいや…しかし、お前、空を飛んだりする癖になぁ…。」 「だって、飛ぶ時は安定感ありますけど、これは不安定ですし、何よりこの他力本願な状況が「ははっ、可愛い奴。」」 「!」 必死に言い訳するごんを無視して、俺は思わずそう言ってしまった。ごんはそんな俺にきょとんとした後、顔を赤くして「へへへ」と目を細めて笑った。 あ、不味い。俺を好きだとか言うごんに変な期待を持たせてしまった…。 「な、なんてな!冗談だ!ほらごん、次行くぞ。」 俺が焦ったように出口に向かいながら手招きすると、ごんは尻尾を振りながらついてくる。 「はい!」

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