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第10話
その後、外でごんと次に乗る乗り物を物色している時だった。
「夏目!」
「あ、久世!」
声をかけてきたのは久世だった。その後ろに戸野と、佐倉がいた。
「ごんごんも久しぶり!」
「久しぶり。」
「久世先輩、戸野先輩お久しぶりです。で、佐倉、お前は何故いるのだ?」
え?
ごんらしからぬ冷たい物言いに、一同は固まった。佐倉は前にごんが嫌いだと言っていた。ごんもなのか?
「俺は戸野先輩に捕まっただけだし。権野こそ、休日まで夏目先輩にひっついてんの?重たい奴は、嫌われるって相場が決まっているんだけどねぇー。」
佐倉の言葉にごんは目つきを更に鋭くする。
…俺、まさかの《やめてー。私はを取り合わないでー!》状態か?ハッキリ言うが、全然美味しくない状況だ。表向きだけでも仲良くしてくれよ。
「まぁまぁ、ごんも佐倉も仲良くしろよ!皆でどこか…。お!これとか空いているぞ!」
「「…あー。」」
俺が指したアトラクションに一同は気のない返事をする。
俺が苦し紛れに選んだのは、ゾンビを打つシューティングアトラクションだった。2人ペアで参加して、アトラクション内を歩いて進み、襲ってくるゾンビの人形を撃っていくものだ。アトラクションの最後には2人の相性が分かるらしい。
「よーし!ごんごん!俺と行くぞ!」
「良いですよ!是非、お供させて下さい!」
乗り気でなかった皆も、いざやるとなってワクワクし出す。まずは久世が面白がってごんを誘った。
「久世先輩って、歳を取らないと言うとか…権野と並んで脳内お子様で…んでっ!」
「!」
きゃっきゃっとアトラクションへ入って行くごんと久世を見て、ぽつりと佐倉がこぼす。その発言いい終わる前に、無言で戸野が佐倉の頭を叩いた。結構、全力の本気だ。
「お…おぉ…。び、びっくりした…。」
「佐倉、お前、黙れ。」
「戸野さん、毎度パワハラが酷いですよ。」
戸野…結構本気で叩いていたが、この2人毎度こんな事してんのか。
俺は戸野の思わぬ暴挙にビクビクするが、当の本人達は平然としている。
凄いなこの2人…。
「はははっ、お前らー、見て見て!」
「なつ先輩〜!見て見て。」
程なくして、ごんと久世が出口から楽しそうに出てきてこちらに駆け寄ってくる。
…まぁ、言い方はあれど、佐倉の言う事もあながち間違ってはいなよな。犬が2匹見える。
「ごんごんと俺、相性、65%だって!」
「この微妙さがリアルですよね〜!」
「そうかそうか。良かったな。」
よし。この流れで、佐倉とごんも上手くやってくれるかな。
幾分和む場の雰囲気に、俺は内心ホッとした。
「なつ先輩、今度は俺と行きましょう。」
「!」
「あぁ、いいぞ。」
「‼︎」
佐倉に誘われて俺は頷く。しかしその言葉と俺の反応を見るや否や、ごんは途端に眉間にシワを寄せた。
「じゃ、なつ先輩、あっちから…。」
「佐倉。」
「…なんだよ。」
佐倉が俺の手を引く。その時、ごんが不機嫌を隠さず佐倉に話しかけた。
「にゃーにゃー。」
「…。」
嘘っぽい笑顔を貼り付けた冷たい目で、ごんは『にゃーにゃー』と言う。
なんだ?
佐倉は一種固まるが、無言のまま再び俺を引いて歩き出した。
「なつ先輩、権野って猫を飼っていますよね?」
入り口でおもちゃの銃を受け取り、アトラクションに入って直ぐに佐倉は話かけてきた。
「ああ。にゃん吉の事か?そうだな。飼っているぞ。結構可愛がっているぞ。」
「ふーん…。なつ先輩もその猫と会っているのですね。」
「ああ?」
佐倉は話ながら片手でバンバンと銃を撃つ。
てか佐倉、涼しい顔のまま、結構な高確率で当てて凄い。ヒットマンかよ。
「なつ先輩も、好きですか?猫。」
「え?ああ、好きだよ?あ、そうだ、佐倉も猫好きならにゃん吉触りに来いよ!かなり可愛いぞ!あの、その…ごんも…猫が好きだからさ…。」
「はは、それは…どうかな?でも、なつ先輩が猫好きなら良かったです。」
二人が仲良くなるネタを提供したつもりだが、佐倉はただ口の端を上げ笑うだけだった。
中々うまくいかないものだな。
「しかし佐倉、シューティング上手いな。」
「そうですか。あっ!なつ先輩!そこ。」
「‼」
ぐっと体を引かれたかと思うと、佐倉は俺の体を後ろから引き寄せて抱え、俺の手の上から引き金を打つ。
バンッ!
ぴろろろろ…!
「良かったですね。100ポイントゲットっすよ。」
俺を腕の中に抱え込んだまま、佐倉はふっと笑い俺を見下ろした。いつもと違い、悪戯っ子みたいな子供っぽい笑顔だった。
「本当だ!や…!」
やった!という前に、佐倉にキスをされた。
「…ふっ!ちょっ、おい!佐倉!」
「ああ…すみません。なつ先輩が俺の腕の中で無邪気に笑うのでつい。」
俺が佐倉に肘打ちをすると、まったく悪気のなさそうな声で佐倉がさらりと謝る。
何が「つい」なの?
「お、お前なぁ…。……え、お前、俺の事…そいういう目で見ているのか?…す、好きなの?」
呆れた声を上げた後、俺はハタと沸いた疑問を佐倉へ投げつけた。佐倉それを聞き、はきょとんとした顔をした。
「…ふふっ、 なつ先輩って、本当、バ可愛いですね。」
続けて佐倉が「あはは」と笑った。俺は思わず顔を赤くする。
「ちょっ、佐倉…!」
「好きですよ。」
「え。」
「なつ先輩を、俺のものにしたいです。俺だけのものに。」
佐倉がらしくなく優しい笑顔でそう言って、固まる俺を抱きしめる。そして今度は、今までとは打って変わって優しいキスをしてきた。
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