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第12話

「ただ今にゃん吉〜。帰りが夜になってごめんな。」 「にゃん吉〜、お土産に高級鰹節買ってきたぞー!」 「にゃー!」 社員旅行から戻り玄関を開けると、にゃん吉が不満げな顔で待っていた。ごんがそんなにゃん吉へお土産の鰹節を食べさせている。 何というか、微笑ましい絵面だ。 「先輩、俺たちも、もう風呂入って寝ましょう~。」 「あぁ。」 …こんなごんが、本当に悪魔ならどうしよう。 俺は悶々としたまま風呂に入り、そのまま直ぐに寝室に向かった。 「先輩。」 「ふっ、あ、ごんっ、やめろって!」 俺がベッドに転がっていると、ごんもいつも間にか横に寝転んでおり、そして当たり前のように俺の服の下に手を差し込んでくる。 これは不味い。 「ふ、…っご、ごんって!」 ごんは俺と目が合うと、怒られているくせににっこりと笑った。 「先輩、好きぃ〜。」 そう言って、今度は俺の両手をベッドに縫い付け覆いかぶさってくる。キスをされそうになって、俺は反射的に顔を背けた。 「…。」 ごんが動きを止める。 「今日、したくない。」 俺はいつになく、はっきりとごんに言った。ごんはじっと、何を考えているのか読めない顔で俺を見下ろしている。 「っていうか、こういうの辞めたい。あのさ、ごん…、やっぱり俺、ごんとはまだ付き合うとかそういう関係にはなれない。だから、俺も頑張って耐えるから、こういうのは、今後極力控えよう。」 「…。」 室内の空気が何処となく不穏で、俺はごんを見られずに続けた。 「久世が女の子と飲み会開くみたいだからさ、そういうとこ行こ?それでお互いに「なつ先輩、何故そんなこというんですか?」」 俺はごんを見上げた。見上げたごんの目は冷たく座っていた。しかしごんは俺と目が合うとハッとしたように表情を緩めた。 「…ごめんなさい…つい…。だって悪魔を見つけたら、俺はもうなつ先輩と一緒に居られないのです。…見つけたら、俺はなつ先輩の中から俺の記憶を消して、消えないといけない。それでも、俺に…悪魔を探せと言うのですか?」 ごんは泣きそうな顔をしていた。 「なんだそれ、初耳だ。」 「これもルールです。元々、天使が人間に正体を明かすことは余程目の前の人間が危機に晒されていない限り、禁止されています。」 そんな…。 「本来なら、天使の正体が人間に知られたら、速やかにその記憶を消す必要があります。なつ先輩の場合、悪魔に存在を知られたうえ、まだその悪魔が見つからないから、未だ対象外です。だから」 だから、ごんは悪魔を本気で探さないのか? 俺は何も言えずにごんを見つめ続けた。 「悪魔を見付けて処分したら、なつ先輩から俺は消えます。」 ごんの顔は悲しそうだった。実際、悲しいのだろう。俺も、それは寂しい。悲しい…。でも今の状況はよくない。健全な状況じゃない。やるべき事を放棄はできない。 「…それでも、悪魔を見付けて処分するのが、ごんの仕事なら俺は手伝うよ。ごんも本当はそうすべきだと、分かっているのだろう?」 「…。」 ごんは、俺の言葉を聞くと寂しそうに笑った。 「…はは…、なつ先輩は…そう言うと思いました…。」 そしてぎゅっと抱きつく。ごんの手は僅かに震えていた。

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