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第13話

女の子は好きなのだが、慣れていないから目の前にするとぎこちなくなってしまう。 「ごんちゃん手、大っきい!」 「そう?ゆうちゃんの手は小さくてネイルもキラキラで可愛いね。」 「ふふふ。」 俺は、依然久世に頼んだ合コンに来ている。ごんと一緒にだ。目線を上げると、正面にいるごんは女の子とニコニコと話している。 まぁ、自分に収穫がなくても、ごんに良い人が見つかればそれで良しとしよう。そして俺はごんとは離れよう。 「おーい!夏目、来たがっていた割になにボケっとしているんだよー。」 しんみりと今後の事を考えていると、ほろ酔いの久世が少し離れたところから叫ぶ。 「え〜夏目さん、彼女募集中ですか?」 すると、俺の隣の女の子がニコニコと話しかけてくる。可愛い子だ。確か、あんちゃんだ。 「ははっ、なつ先輩がフリーなら俺が狙っちゃおうかな。」 「あはは、佐倉くん、何言ってんの〜!」 そしてこの合コン、なんと佐倉も参加しているのだ。佐倉が軽口を叩き、俺とあんちゃんの間に割り込む。すると、あんちゃんは俺よりも佐倉へ媚びた目を向けた。そりゃ、顔が良い方になびくよな…。 「だから先輩…」 バシャッ 「わっ!」 「わぁっ、すみません!」 佐倉が何かを言いかけた時、急にごんの手元のグラスが倒れた。ごんが慌てて俺に近寄り、俺の手を拭く。 「先輩、服は濡れませんでした?大丈夫かな?」 「はは、ごんごん立派な酔っ払いだなぁ。」 「そうですね、酔いました〜。」 拭き終えると、ごんは柔らかい口調のわりに強引に佐倉を押し除け俺の隣に座った。久世が茶化すと、ごんもいつもの如くへらへらと笑った。 「やった!ごんくんとも話したかったんだ〜!」 ゴンと入れ替わりで去った佐倉を名残惜しそうに見ていたあんちゃんの気は、もうごんに移ったらしい。 「本当?なんの話しよっかぁ?」 そういってごんはまたにこにこと話す。なんだかんだいっても、ごんは男だ。女の子の方がやっぱり好きなんだよな。 俺は話す相手が居なくなっても不思議と安心感を感じていた。 ここでごんが上手くいくように陰ながらフォローしようかな。 「じゃ、ごんくんの好きなタイプ教えてよ。」 「あはは、タイプ?て言うか、俺、今片思い中だし。」 「えー、本当?!」 「ごんごんまじか!誰⁈」 ごんの片思い発言に皆の興味が集まる。久世はきっと今後のごんの合コンへの参加率低下を危惧しているのだろう、前のめりに話に食いつく。俺だけが固唾を飲み固まった。 え、まさかな…?言うなよ? 「久世さんー、でも俺の片想い全然実りそうにないんです。」 「あ、そうなん?」 ごんの嘆きに久世はあからさまにホッとする。久世は本当に薄情を絵に書いたような男だ。 「どんな子なの?」 女の子達も興味津々でごんを問い詰める。 「仕事にも人にも真面目で、真っ直ぐな人なんです。」 ごんはちらりと俺をみて微笑んだ。 「少し抜けていて、でも芯が通っていて、愚直で損する事もある。それでもめげずに頑張っていて…そんな全部が愛おしいんです。」 「…。」 何故か周囲にしんみりとした雰囲気が流れた。まるで、皆がごんに同情して応援するような。ただ俺だけが何故か隅でドキマギとする。だって、皆に見えない所でごんが俺の手を握っているからだ。ぎゅっと握られる手。それはさしずめ、皆に言っているようで、実のところ俺1人への愛の告白のようだった。 ごめん…ごん…嬉しくない。 「ごんくん、その好きな子って…、」 「へー、俺の好きな子とかぶ…ぶっ‼︎」 そんな雰囲気を佐倉が冷めた軽口でぶち壊そうとした所、戸野が勢いよく佐倉の頭を叩いた。何処かで見た光景だ。 「いって。」 「お前、本当、空気読め。」 頭をさする佐倉に、戸野が無表情で叱責する。 「ははははっ、佐倉くん、ぶって!」 「戸野さん、振りかぶって殴ったよね!」 「戸野、まじパワハラ‼︎」 その瞬間、その場の雰囲気は変わりまた明るいものになる。俺としては助かり、体から力を抜いた。その時、佐倉と目が合った。佐倉は俺と目が合うと一瞬だけ、ニッと悪戯っぽく笑った。 …なんか、助けてくれたの? 「戸野先輩、こんな人前でパワハラはやめて下さい。そろそろ、組合に言いつけますよ。」 「黙れ。」 戸野の冷めた声と周囲の笑い声がまた一段と大きくなる。 その後は合コンだったはずが、何故かごんを励まし応援する会と化した。 久世は飲め飲めとごんに酒を勧めるし、ごんは酔っ払ったと人目を憚らず俺にくっついた。

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