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第17話
「ごん、もう気はすんだろ。俺は自分の家に帰る。帰りたい。」
「え。だめですよ。」
「はぁ⁈お前の都合なんか…っ、」
こんなのに付き合ってはいられない。
俺は玄関に向かって駆け出した。
「うっ。」
と思ったらこけた。いや、体の動きをごんに乗っ取られたんだ。俺はガクガクとネジが切れかけたブリキ人形の様にギクシャクとした動きでごんに近づく。そしてギュッとごんに抱きついた。
「先輩、もう離しませんよ。やっと再開できたのだから。」
愛の告白にもとれるそれに、俺は薄寒いものを感じて震えた。
「…さ、再開って、なに…。」
俺は一体過去、何処でごんに会って目もつけられたのだろう?
「ふふ、なつ先輩は覚えていませんよね。寂しいけど仕方ないですよね。数百年前、なつ先輩にとったら、何回か前世かな?」
なんだよ、それ…。
ごんは俺の額に、愛おしそうにキスをした。
「ずっと探していたんです。何百日も、何千日も、何万日も、俺は1人でずっと、なつ先輩を探し回っていました。」
俺の頬に手を添えて、ごんは甘く笑う。愛おしげな、もっと言えばそれがいきすぎて狂気をはらんだ視線が俺に向けられた。
「見つけたら、もう離さない。次会えたら、絶対に手放さないって決めていました。」
唇にキス。甘ったるいキスだ。
ごん、なんだよそれ。前世とか言われても…分からない。怖いよ…。スケールについていけない。
「さぁ、なつ先輩。次の段階に進みましょう?」
ごんが赤い目で、怪しくにっこりと笑った。
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ごんはそれから俺にべったりだ。仕事は勝手に1週間の休みを取らされた。
「閑散期で良かったですね。」だと?良くない。今も、何故かごんの家で一緒に映画を観ている。ごんは俺の膝に頭を乗せ、甘える様にぴったりとくっついてくる。
「なんか時代背景と衣装が合ってないですね。第一…」
「…。」
ごんはこの時代も生きていたらしく、映画の設定について云々と言う。俺は昨日からの精神疲労に加え、この状況への疲労も重なりぼんやりとごんの話を聞き流した。
どうにか…ごんから逃げなければ。
「先輩、聞いていますか?」
「あー、うん。」
「なつ先輩が選んだ映画なのになぁ…。あ!もしかして、あの女見ていました?俺、なつ先輩の女の好み、割と把握していますよ?」
ごん、君は馬鹿なのでしょうか。
俺は呆れてため息をついた。
「ごん、俺たちが会ったとかいうのは、この映画の時代位?」
「そうですね。丁度この辺りですね。」
「ふーん。」
「そんな昔の俺と今の俺、全く違う人間だろ。」
俺はポツリと呟いた。
こんな昔の因縁で追いかけ回されても、正直他人事に感じる。て、いうか、確実に他人事だよな?
しかしごんはそんな俺をぽかんとみて、吹き出して笑った。
「ははは、いやいや。なつ先輩、全然変わらないですよ。」
「何故言い切れるんだよ?性格が同じなのか?」
「そうですよ。魂は同じなつ先輩ですから。あの時代のなつ先輩も、仕事一筋で、真面目で不器用で、真っ直ぐな芯のある素敵な人でしたよ。」
そう言うとごんは俺を見つめてニコリと笑い、ちゅっと俺の手にキスをした。
いや、「ちゅっ」じゃねーぞ。本当かよ。
「本当かぁ?仕事って何してたの俺。」
「ピアノ弾いていました。」
ごんは懐かしそうに言いながら、俺の手を取り、ピアノを弾く様にカクカクと動かした。
「ピアノ?ピアニスト?いや、俺、全然ピアノとか弾けないし。」
俺の言葉をきき、ごんはぴくりと動きを止め悲しそうな顔をした。
やっぱり!違うと思ったんだろ?
俺は内心ほら見ろと少し喜んでいた。
「…そうですね。ごめんなさい…。きっと、俺のせい。俺のせいで、先輩はもう弾けないんです。あんなに…先輩にとって大事なものだったのに、罰として才を取られたんだ。」
「…。」
才を取られる?ごんのせいで?
「先輩、今もよく音楽聴いてコツコツ、指で弾いているじゃないですか。それ聞くたびに…俺…ごめんなさい…。」
おいおい、何したんだよ…。昔のごん、と俺。
しかし、ごんにしゅんとされて俺は内心戸惑う。何でだろう。そう言えば前から俺はごんに弱い。
「……。」
「なつ先輩?」
俺はごんのおデコに手を置いた。フワフワとした猫っ気が手に当たる。
「俺は別にピアノ弾けなくても困らないから。何だその…気にするな?」
「…ふっ、ふふっ…。」
一瞬目を見開いた後、ごんは歯に噛んで笑った。
「なつ先輩、好き。」
「…。」
「本当に。大好き。」
そしてまた俺の手を引き寄せキスをする。俺も何をしているんだ。ごんの気持ちを受け入れる事は出来ないのだから、はっきり拒絶すべきだったのに俺は…。はぁ…。
「その当時は、俺とごんの仲はどうだった?」
「んー、色々ありましたけど、最後はなつ先輩から俺を選んでくれましたよ。」
ごんは嬉しそうに笑った。
まじか…、当時の俺、正気か?あと、『色々あったけど』その言葉が気になる。
「あ゛ー、しかし、この女、本当みていて苛々するな。」
しかし急にごんが低い声を上げるので、俺は思わずびくりと身を竦めた。
「先輩をかどかわして、俺から取ろうとした奴に似ています。」
先程、俺が見惚れたとかごんが言っていた女優を指してごんがぼやいた。素朴で地味可愛くて、俺は結構タイプだ。正直、ごんとこういう子なら、この子を選ぶ。
「まぁ、あいつも、最後はぎゃふんと言わして、地獄に落としてやりましたけど。」
「…。」
ごんは映画の女優を嘲笑うかの様な、黒い笑みを浮かべた。
やっぱりこれ、昔の俺もごんに騙されてない?
「はぁ、しかし、なつ先輩の膝枕、幸せです。なつ先輩の匂い好き〜。」
うっとりと呟き俺の膝に頬擦りするごんに嫌なものを感じ、ちらりと見るとごんのものが勃っているのが見えた。
気持ちが沈む。結局、今も昔も俺はごんに付き纏われ、地獄を見る運命なのか。
「なつ先輩…したいです…。」
頬を染めおずおずという割に、もう決定事項のようだ。ごんは勝手に俺の服を脱がせ始める。
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