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第19話

そして、それが起きたのは、眠りにおちて数時間経った頃だ。 『なつ先輩…なつ先輩…。』 何処からか、いや自分の頭の中から?声がする。俺の意識が夢の中から何処かへ引っ張られる。体は動かないが、目だけ開けられた。目を開けると、あたり一面真っ白な空間が目に入った。 『なんだ?なんだこれ?』 『なつ先輩!良かった。なんとか繋がった。』 『その声は、佐倉?』 『そうです。佐倉です。託宣みたいなものです。』 え?お告げ的な?すげーな、佐倉、そんな事出来るんだ!…いや、待てよ…。 『佐倉、こんな事出来るなら、脅されているにしろ、もっと早くごんのこと教えてくれよ!』 俺の心からの叫びだった。ごんが堕天使で、あんなに邪な存在で数世紀に及ぶ自分のストーカーと知っていたら、流石の俺も距離をとった。こうなる前に全力で逃げた。 『すみません。何度か試したんですが、権野に邪魔されて…。今日は上手くいったから…なつ先輩、余程沢山、権野とセックスしたんですね。』 『…ぇ。』 俺は佐倉が若干の恨み節でさらりと言ってのけた言葉に、何も言い返せなかった。だって佐倉はごんの弟で、ごんの事慕ってそうだし…。考えれば考える程気まずいな。 『その反応、きっと俺と兄さんの関係も聞いたんですね。大丈夫です。気にしていません。寧ろ、こちらで兄さんを制御出来ず、なつ先輩に迷惑をかけてしまいすみません。』 『あ、はい…。』 佐倉はテキパキと答える。 なんか、いつもより真面目だ。天使っぽい。 『それより佐倉、助けてくれ!』 『はい。俺もなんとかしたいのですが、兄さんのガードが硬くてそのマンションにすら近づけません…。』 佐倉が悔しそうに言葉を漏らした。 『何か、方法はないのか?ただ助けてとは言わない。俺も出来る限り自力で頑張る。何とか、ごんに隙を作る方法とかはないか?』 『それならあります。』 『え!』 あるじゃん! 俺はいきなり沸いて出た希望に、僅かながら興奮する。 『何?どうすればいいんだ⁈』 『天使の精です。俺たちは精を使い過ぎると、疲労します。つまり兄さんは疲れますが、反比例してなつ先輩は元気になるので一番可能性があります。』 『……でもそれって、いっぱいセックスしろって事だろ…?』 『申し訳ないですが…そう言う事です…。俺がなつ先輩にさせたかったからちょっと気が引けますが…、なつ先輩が口でするのでも効果は高いです。ただ、静液は溢さず飲みましょうね。』 いや、させたかったってなんだよ。 佐倉の言葉に俺は呆気に取られてもはや何も言えない。捨身にも程がある。 『佐倉って、ビジネスチャラ男だったんだな…。』 『いや、今は真面目になる時でしょ。それに、天使の精は兄さんが悪用しているだけで元々は人間を助ける為のものです。そのためなんでも人間が受け入れやすいように出来ています。精液とはいえ、多分なつ先輩の好きな味がしますよ。』 『はぁ…。』 『兄さんが疲れたところで、隙を突いて背中の羽の付け根あたり、肩甲骨の辺りを蹴ってください。丁度羽を格納する場所なので気管が密集しており、我々はここを殴られるとかなり痛いです。それでなんとかベランダになつ先輩が出られれば、俺がなつ先輩を回収できます。』 『なるほど…。』 確かに、佐倉の案は可能性があるように思えた。 『そう言えば、ごんがよく《次の段階》って言うんだけど、それ佐倉が前言っていたやつ?』 『…恐らく…それです。兄さんはきっと、なつ先輩に《兄さんが愛しい。兄さんに愛されたい。》という欲望を植え付けるつもりなのでしょう。』 『やっぱりか…。』 俺は絶望した。 だってそんなの、俺自身が乗っ取られるって事と同意義じゃないか…。これでは最終的には、俺は俺でなくなり唯の操り人形にされてしまう。 『…それは…どれくらいでそうなるんだ?』 不安と恐怖で、自然と声が震える。 『…悪魔の力の強さにも比例するんですが、兄さんならきっと、1週間程度ですかね…。』 『…』 佐倉が申し訳なさそうに言った。直ぐじゃないか。俺はじわりと押し寄せる絶望感を感じていた。 『それまでに、出来る事は何でもします。だから先輩も、我慢して頑張ってもらえますか?』 『…分かった。』 『では、そろそろ兄さんに気づかれるとまずいので、俺は失礼します。』 『ああ、ありがとうな、佐倉。』 正直心細い。しかし、ここからはもう1人でやるしかない場面だ。俺は自分を、何とか奮い立たせた。 『…なつ先輩、大丈夫です。これだけしっかり覚えていてください。兄さんの精を搾り取る!兄さんの背中を殴ってベランダに出る‼︎』 『…なんか、そう聞くと凄く非人道的…。』 そこで俺の意識がまたぼやけ始める。 あぁ、忘れないようにしないと。俺は頭の中で今後の計画を何度も反芻した。

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