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初恋は遠くにありて想うもの 11

「おっ、それ『怨霊の囁き』と『ブラッディアスク2』じゃねえか。すっげえ観たかったんだよ、それ」 「克が観たいって言ってたから買っておいたんだよ。寮暮らしじゃなかなか映画館にもいけないでしょ。私は映画館で観たんだけど、なかなかよかったよ。どっちから観る?」 「そうだな……。おい、シロ、おまえはどっちがいい?」  森正は浮き浮きとした表情で俺に訊いてきたが、どっちもこっちもそっちもあっちもない。俺はこの手の映画が死ぬほど苦手なのだ。 「いや、どっちって……」 「おまえに選ばせてやるよ」  親切なのかなんなのかわからない申し出だったが、「どっちから」ということはどっちも観ることになるんだろう。だったらどっちが先でもおなじである。 「俺はどっちでもいいけど……」 「じゃあ、『ブラッディアスク2』から観ようぜ。1は牛の生き血を四トンも使ったんだったっけ。さっすがに迫力あったよなー」  牛の生き血が四トン――  想像しただけで、俺の血が四トン流れ出したかのように、血の気がすうっと遠のく。だいたい血の単位にトンってなんなのだ。血の単位はミリリットル、せいぜいがリットルではないのか。 「あっ、いやっ、やっぱり『怨霊のつぶやき』からにしよう! あいうえお順でも怨霊のほうが先にくるしな。うん、うん、そうだ、そうしよう」  俺はあわてて言った。どうせどっちも観ることになるとはいえ、ホラーに不慣れな俺の心身に、いきなり牛の血四トンはハードすぎる。まずは『怨霊のつぶやき』で軽く慣らしてから『ブラッディなんちゃら』に挑むことにしよう。 「つぶやきじゃなくって囁きな。千夏、『怨霊の囁き』からだってよ。そういや、この映画って関係者が次から次に死んだり、大怪我したり、足の小指をやたらと箪笥の角にぶつけたりって噂があったよな」 「そうそう、ネットで噂になってたよね。ほんとうかどうかは知らないけど……カメラマンが交通事故で亡くなったとか、自殺者が出たとか、足の小指をぶつけすぎて骨折したとか、いろいろ噂になったみたい」  引くだけ引きまくった血の気が更に引いていく。貧血で倒れてしまわないのが不思議なくらいだ。 「……そ、そんな映画を観て大丈夫なんですか? 俺たちまで呪われたら――」 「ね! 楽しみだよね。こっちにまで呪いが降りかかったらどうしよう!」  いやいやいや、呪いは楽しみにするようなものじゃないだろう。  千夏さんの表情も声も果てしなく明るい。わくわくという擬音が、千夏さんの背後にでっかく浮かび上がっている。

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