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初恋は遠くにありて想うもの 12

「ホラー映画好きなんですか……?」 「うん、大好き。……あ、ひょっとしてシロちゃん、ホラーだめな人だった?」  俺のテンションが低いことに気づいたらしい。千夏さんは心配そうな顔で俺を見つめてきた。 「あー、おまえって変なところでへたれるもんなあ。苦手なら苦手って言えよ。無理すると夜中にトイレにいけなくなるぞ」  森正に言われたとおり、 「そのパッケージだけでもぶるってしまって、ひとりでトイレにいけなくなりそうなくらいホラーが苦手で苦手で苦手なんです」  正直にそう言ってしまえばよかったのかもしれない。  が、しかし、ここで正直に言おうものなら、森正はこのことをネタにして末代までからかってくるに違いない。  それに女性の前で情けないところをさらけ出すのは、日本男児としていかがなものか。 「いやっ、苦手じゃないですよ。特に好きこのんでも観ないけど……苦手じゃないです」 「よかったー。じゃあ、みんなで一緒に観れるね」  千夏さんが浮き浮きとした表情でDVDプレイヤーにディスクをセットするのを、俺は悲愴な思いで見つめていた。  部屋がいきなり暗くなった。 「なっ、なに――」  さっそく映画の呪いで心霊現象が起こったのかと思ったが、森正が照明のスイッチをオフにしただけだった。 「なんで電気を消すんだよ!」 「ホラー映画は部屋を真っ暗にして観るものって相場が決まってんだよ」  そりゃあ明るい部屋で観るよりも暗い部屋で観たほうがムードは出るだろうが、ホラー初心者の俺のことを少しは考慮してくれてもいいではないか。 「シロちゃん、ソファーに座りなよ。すぐに始まるよ」  千夏さんに促されて、しかたなくソファーに腰を下ろす。森正が真ん中、俺と千夏さんがそれぞれその隣に座る形になった。  どうかDVDプレイヤーが壊れてしまって動きませんように、という俺の願いもむなしく、『怨霊のつぶやき』だか囁きだか独り言だかはなんの問題もなく始まってしまった。  そして、それから三時間後―― 「……『ブラッディアスク』は1のほうが迫力があってよかったな。なんつうか、ただ血が流れたり、腹が引き裂かれたりすりゃいいってもんじゃねーんだよ、スプラッタは。その手の演出が過剰になると、逆に萎えるっつうか」 「1で牛の生き血を使った演出が受けたから、そっちのほうに走っちゃったのかもね。私はこれはこれで嫌いじゃないんだけど。まあ、1のほうがよかった、っていうのは同意。いくらスプラッタでも、最低限のリアリティは欲しいよね。『怨霊』はどうだった?」 「まあ、よくあるパターンっていやあパターンだけどよ、愛すべき王道って感じで俺は好きだな。ホラーが大好きな奴らが作ったんだな、って感じで」 「だよね、だよね。私もそう思ったんだ。『怨霊』って由緒正しきジャパニーズホラーだよね。ホラーっていうよりも怪談っていう雰囲気で。幽霊の側に悲しくって切実な理由があるのが、いい意味で日本的だったな」

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