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1・真似事

「蓮斗〜!おかえり。門限ギリギリだね」 玄関で靴を履き替えようと屈んでいると、後ろから抱きつかれバランスを崩して前につんのめりそうになって慌てる。 「飛鳥、邪魔だよ」 「え〜!先生にバレないようにアリバイ工作してあげたのに?」 下駄箱に靴を入れようとすると、俺よりほんの少しだけ小さいソイツは正面から抱きついてきた。 「蓮斗は委員会活動で遅くなるって先生に言っておいたよ。・・・お礼は?」 クリクリした色素の薄い茶色い瞳をした目。 絹のようにしっとりと滑らかな白い肌。 少し赤茶けたサラサラの髪。 今、目の前にいるこいつを初めて見た時、 『あ、天使みたいなΩって現実にいるんだな』 と感動したもんだ。 だが俺は、こいつが本当は悪魔のようなΩだということを十分に知っている。 現に今こいつは、天使のような微笑みで俺を脅迫しているのだ・・・。 「ほう・・・白浜飛鳥くんは一体なにがお望みで?」 「口止めのキス」 「はいはい」 誰もいないことを確認して、監視カメラの死角に飛鳥を引っ張り込んで、おざなりに軽く触れるだけのキスをしてやる。 「満足ですか?」 満面の笑みで覗き込んだ飛鳥の顔は、不機嫌を絵に描いたような表情をしていて笑える。 「もっとディープなやつだよ!舌と舌を舐め合うようなやつ!」 ぶーっと突き出された唇を指で摘んで引っ張ってやる。 「お子様は大人しく飴玉でも舐めていなさい 「なんだよ!いっこ上なだけで大人ぶんじゃねーよ!」 2人でもつれあいながら当直の先生に帰宅の挨拶をして、二階の自室に向かう。 その間も、飛鳥は俺にひっついてきて正直ウザい。 ウザい・・・が、俺は飛鳥を本気で邪険になどできなかった。 ここは、親元で暮らすことの出来ないΩが健全な生活と自立を目指して共同生活している、通称ホームと呼ばれている場所だ。 一部屋に2人ずつ割り当てられていて、俺の暮らすここは比較的小規模なホームだから、部屋は6室しかなくて定員は12人。 確か今は11人の18歳未満のΩ性の男子が入所しているはず。 先生と呼ばれる職員は5、6人。24時間体制で俺らを見張っている。 ここにいる連中は、みんな何かしらの事情を抱えていた。 俺も飛鳥も、他のメンバーも・・・。 同じような痛みを抱えるもの同士、口では色々言ったとしてもみんな兄弟のように接していた。 正直、親元で暮らしていた時より俺はここのほうが幸せだと思っていた。 部屋に入って制服を脱ごうとすると、ついて来た飛鳥がまたも背後から抱きついてきた。 「ちょっと、脱げないじゃん。離れろよ」 「蓮斗、こんなとこにキスマークついてる」 「えっ!マジで⁈」 ほらここ!と飛鳥に指さされ、ロッカーの小さな鏡で確認すると ・・・本当だ、あのオヤジめ。 太ももだけでなく、こんなに目立つ首筋にまでも付けやがったか。 「クソ・・・。もっと取ってやればよかった」 いくら拭いたって消えるはずなんてないけども、脱いだワイシャツで乱暴に首筋をゴシゴシ擦っていると、鏡越しに冷めた目をした飛鳥と目が合った。

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