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第6夜 第10話

次の朝の目覚めは日の出でだった。 カーテンを閉めていなかったから一面の窓から朝日が室内を照らしはじめ、その眩しさに目が覚めた。 昨日はあれからもう一度シて、お風呂に入って、上がってからもベッドの上で過ごして寝たのはたぶん2時近くだったと思う。 最後は捺くんは疲れ果てて気づいたら眠ってしまっていて、そんな彼を抱きしめて俺も眠りについた。 「……ん」 半身を起して朝日の眩さに目を細め景色を見ていたら捺くんがまぶたをゆっくりと上げた。 ぼんやりとした眼差しが俺を捕らえて眠たそうに瞬きする。 「いま……何時…?」 「まだ6時にもなってないよ。5時半。寝てていいよ」 細く少し癖のある捺くんの髪に触れ、あやすように撫でる。 「……う…ん…」 うとうとと目をつむりながら俺に身体を寄せてきた。 適度に涼しく心地いいくらいに保たれた室温。 裸のままの肌が触れ伝わってくる体温に心が和む。 もう一度俺もベッドにもぐりこむと、無意識なのか寝ぼけているのか捺くんが抱きついてくる。 そっと顔を覗き込めば寝息を立てていて笑みがこぼれた。 寝顔は綺麗だけど普段よりもずっとあどけなくて、出会ったころのような幼ささえも感じさせる。 その頬に指を滑らせ、唇を寄せる。 「……ん」 少し捺くんは身じろぎしたけれどそのまま俺に身を寄せたままで、俺も穏やかな寝息に誘われるように再び眠りについた。 そして二度目の眠りから覚めたのは――。 「……あ、寝すぎた」 乱れたシーツから顔を上げ、サイドテーブルの時計を見ればもう10時を指していて、あわてて捺くんの肩を揺すった。 「んー?」 「捺くん、もう10時だよ」 チェックアウトの時間は11時。 1時間もあれば用意はじゅうぶんできるけれど、旅先での目覚めとしてはかなり遅くなってしまった。 「大丈夫、起きれる?」 昨日の夜は結構ハードに身体を重ねたから腰がつらいんじゃないだろうか。 心配で腰を摩ってあげていると、目を開けた捺くんが大きな欠伸をしながら身体を起こした。 「……平気、ありがとう」 まだ寝ぼけた様子で何度も欠伸をしながら目を擦っている。 水でも飲んで頭をクリアにさせたほうがいいかなとベッドから下りようと動いたら腕を引かれた。 「なに?」 「優斗さん、おはよーのチューは?」 「……」 ぼんやりしているようなのに微笑んでおねだりしてくる捺くんに苦笑してキスを落とす。 「ねー、あのさ」 触れるだけのキスを数回交わしたあと、ようやくすっきり目が覚めたらしい捺くんは上目遣いで見上げてきた。 今度はなんのおねだりだろうと首を傾げれば、悪戯に目を輝かせた捺くんが俺をベッドに押し倒した。 「な、どうしたの?」 「おはよーのえっちしよーよ」 「……でももう10時だよ?」 「ここのホテル延長できるらしいよ? 1時間宿泊延長して12時チェックアウトしてブランチして出掛けようよ」 「でも」 「だって、なんかシたい気分」 「……昨日も結構シたし、あとで身体ダルくなるかもしれないよ?」 「へーきへーき。今日は適当に見て回って帰るだけだしさ。旅先でエッチしまくった思い出も楽しそうでしょ?」 無邪気に笑って唇を塞いでくる捺くんに戸惑いながらも喜んで反応してしまう身体。 自由な捺くんの行動に羨ましさえ感じながら笑って、そして身体を起こした。 上に乗っていた捺くんの身体をベッドに沈める。 「捺くんが誘ったんだから責任取るんだよ?」 目を細めれば「もちろん」と俺の首に手を回し引き寄せてくる。 笑いあいながらおよそ朝に不似合いな深いキスから始めた。 早朝起きたときよりも強い陽射しが照らす室内で明るさも厭わずに情交に耽る。 夜ではなく朝の睦みあいは爽やかな空気の中で妙に卑猥で。 一回りも歳が違う捺くんに夜も朝も俺は溺れさせられてばかりだった――。 *** 12時ギリギリまでゆっくりして準備を整えたころ、ようやく捺くんはテーブルに置きっぱなしにしていたスマホを手にした。 「……うぜぇ」 着信を確認したのかボソッとうんざりした様子で呟いている。 「……どうかした?」 昨日のうちにクロくんから連絡が入っていることを教えもせずに、いましらじらしくそう声をかける自分にため息が出る。 荷物を持ちながら捺くんを見るとスマホをポケットにしまいながら俺の方に来た。 「んー、バカから着信入ってただけ」 「バカって。折り返さなくていいの?」 よくクロくんのことをそういう風に呼んでいる捺くんに苦笑しながら――気になっていたことをさりげなく訊いてみる。 「んー? いい、いい」 「いいの?」 「朱理からもメールきてて旅行から帰って来てから連絡してくれればいいってあったから」 「そうなんだ」 クロくんだけじゃなく、朱理くんが関わっているということに少し安心した。 彼単独ではなくてその恋人も一緒なのなら――……とか考えてしまう自分の小ささに再度のため息が出てしまう。 「あーあ……なんか寂しいね?」 もうひとつの荷物を持った捺くんが俺の腕をとって顔を覗き込む。 「うん?」 「だってさー、もう今日帰るんだよ」 二泊の旅行なんてあっという間に終わってしまう。 帰りたくないなーとぼやく捺くんに、そうだね、と頷いて笑って片手で身体を引き寄せ抱きしめた。 男同士だから、ホテルを出てしまえば手を繋いだりこうして抱きしめあったりすることはできない。 俺自身人前で触れ合うことはもともとするタイプではないけれど、それでも制約があると寂しいというか……。 「また来よう」 ここじゃなくても、別のところでも。 時間が許すのなら、どこへでも行っておきたい。 「うん、絶対!」 元気よく頷く捺くんと最後にもう一度キスを交わしてチェックアウトのため部屋をあとにした。 ***

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