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第6夜 おまけ

「あ、そうだ俺もうひとつ聞きたいことがあったんだ」 「んー、なにー?」 「捺くんって貯金が趣味なの?」 「……えっ!?」 「金貯金もしてるの?」 「……それ誰から」 「智紀」 「……」 「貯金してなにか欲しいものでもあるの?」 「……」 「……捺くん」 「…………ら」 「え?」 「しょ、将来なんかあったときのための蓄え! もし会社辞めなきゃなんなくなったりしたら、って別にそうならなくっても……さ、さっきも言ったけど、いつか優斗さんと会社立ちあげてもいいなーとか思って、その資金!!」 「……」 「で、でもっ、俺の貯金なんて雀の涙みたいなモンだから!! まじで少ないからっ!!」 「……」 「会社っていってもコンサルだと俺、勉強いるけど。だから……ほ、ほんとは……優斗さんと同じ業種で働きたいなとか思ったんだけど、せっかく会社立ちあげるなら俺が別の職種経験してたほうが振り幅広くていいかなーとか思っ……て……って、あの……っ」 「……」 「あー! もう、いい! 忘れて!」 「……」 「もーヤりすぎて疲れたから寝る!!」 「捺くん」 「……」 「捺くん?」 「……」 「好きだよ」 「……俺も好き」 耳まで赤くして俺に背を向けていた捺くんを後ろから抱き締めて、たまに眠りに誘われながら"いつか"の話をして朝まで過ごした。 ☆ほんとに終わり☆ と、思ったら。 おまけのおまけ もうお互いうとうととして話も途切れ途切れになってきた朝方。 まぶたも完全に落ちそうになっていた捺くんが、 「そういえば……」 と目を擦りながら欠伸混じりに呟いた。 「……なに?」 「あのさ、俺……今日から……優斗さんの……マンション……住むから……」 「……そっか……」 おやすみー、と小さな声が聞こえてきて俺もおやすみと返しまぶたを閉じ―――。 「え!?」 跳ね起きた。 「ちょ、捺くん?」 枕に顔をうずめすっかり寝入ったらしい捺くんの肩を揺さぶる。 「……んー?」 「捺くん、住むって?」 一気に頭はクリアになって、眠気なんて吹き飛んでいた。 捺くんは声を出すのも精いっぱいのようだけど。 「どういうこと?」 「……ど……う……せー…」 「……」 呆然としていると寝息が聞こえてきて、申し訳ないと思うけれどまた肩を揺すった。 「捺くん、同棲って? 家は?」 「……ん……もー……出た……よ」 「出たって?!」 「……んー」 「捺くん!」 「ん……、親には……りょうかいとってる……から……優斗さん……今度紹介……するねー……」 「……」 理解できない状況に呆然としているうちに寝息がまた聞こえてきて、やっぱり肩を揺すった。 だけど今度は完全に寝てしまったのか捺くんはまったく反応せずに、安らかな寝息だけが静かな部屋の中に響いていた。 「……」 俺は結局それから寝ることができなくて、捺くんが起きて事情を訊くまで寝返りばかり打ってしまっていた。 お昼頃眠そうに起きた捺くんが言うには―――。 「大学入ってからお袋と姉貴にはカミングアウトしてたんだ。男の恋人がいるって。親父に話したのは二年になってからかなー。なかなか説得するのに時間がかかってさー。この前叔母さんが来て、叔母さん俺の味方だから訳話したら親父説得してくれてー」 で、一緒に住めることになりました! と、捺くんは嬉しそうに笑ってキスをしてきた。 俺はやっぱりひたすら呆然とするしかできなかったけれど、捺くんがこの3年間俺との同棲を認めさせるのに使った労力やなんかを詳しく解説され、 「イヤだって言わないよね?」 と上目遣いに問われれば俺が嫌なんて言える筈もなく。 いやそもそも嫌なはずがないんだけれど。 とにかく決定事項ということなので、 「じゃ、じゃあ、あの捺くん、今晩ご挨拶に伺っていいかな?」 「え? 今夜!?」 「だって大事な息子さんをお預かりするんだし、早くご挨拶を」 「い、いやいや、来週にしよう! ね!? うちめちゃくちゃ散らかってるしさ!」 「俺は気にしないし」 「いやいやいや、準備もあるし! ね!???」 「……わかった。じゃあお土産なにがいいか今から決めておこうか」 「土産とかいらな」 「お母様とお姉さんは甘いものお好きだよね?」 「……お母様って……」 「お父様にはお酒とかのほうがいいかな?」 「……いや、あの……」 「俺、スーツで行くけど。ネクタイどうしよう」 「……なんでもいいんじゃない……」 最終的に捺くんの家族のことばかり気にかける俺に捺くんが拗ねた。 慌てて捺くんの機嫌をとりながら、ようやく俺はこれからの毎日を考えて―――頬が緩むのを抑えきれなかった。 「捺くん」 「……なに」 「同棲の記念に……なにかお揃いの買おうか?」 「買う!!」 おまけのおまけ☆ほんとうにおわり

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