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第6夜 第32話

「その……クロくんは朱理くんのこと好きなの?」 「好きじゃなきゃ6年も7年も一緒いないんじゃない?」 「……そっか」 「クロのさ、優斗さんを好きだとか気にいっただとかっていうのって初めてじゃないんだよ。高校からあったらしいし、実際大学入って知り合ってクロが優斗さん気にいったって言ったあとにも一回ほかの年上男性に一目ぼれしたとか言ってアタックしてたし」 「……と、年上好きなんだね」 会うたびにちょっかいをかけられていたはずのこの二年間を思い出すと、ある意味衝撃的で言葉が詰まってしまった。 「そうそう。もとはノーマルらしいんだけど朱理のせいで男に目覚めたのかなんなのか、いまは男にしか興味ないんだって。で、年上の大人の男がタイプだって」 「……そう。でも朱理くんのことは好きなんだよね?」 「あー……だから、なんていうんだろうなぁ。俺があいつら見て思ったのは……。たぶんクロってさバカツンデレなんだよ」 「バカ……ツン?」 「ツンデレとかあいつに使うのキモイから、バカツンで! 好きなくせにもともと朱理から強引にだったからなんか素直になりきれてないところがあるっていうか。タイプの男見つけていいよったりするけど実際浮気とかしたことないし。まぁ……誰かさんもされてたみたいだけど、あってもキスくらい?」 キス、のところで横目に見られつい顔を背けてしまった。 「そんでそれ朱理にばれて、お仕置きされてー、仲直りしてー……ってそんなのの繰り返しらしい。ずっと」 「……複雑なんだね」 「んー、クロがバカなだけだよ。好きなら好きって言ってりゃいいだけなのに。気を引こうとしてんのか、そこまで好きじゃないんだぞってアピールなのかなんなのかよくわかんねーけど」 ペットボトルを口元にあて、バカバカと呆れた様子にしている捺くんは、だけど本気でクロくんのことをバカにしているとかではなさそうで。 逆に―――。 「羨ましいな……クロくんは」 ぽつり呟いてしまい、捺くんが不思議そうに首を傾げた。 「なにが?」 「いや……捺くんにそんなにも理解してもらってて」 なにを言ってるんだろう、俺は。 嫉妬しているようにも聞こえてしまいそうな気がして、自分に苦笑してしまう。 捺くんはポカンとしたようにじーっと俺を見つめてきた。 やっぱりヤキモチを焼いたと思われたかな? 視線を泳がせているとペットボトルを置いた捺くんが突然俺の腕を掴んで押してきた。 視界が反転し、押し倒されたのだと気づく。 「ね、優斗さん。それってヤキモチ?」 「……さぁ、どうかな? ただ親友っていいなって思っただけだよ」 一旦は喧嘩したりしたと言っていたけどいまもこうして捺くんとクロくんが一緒にいるということは気が合うんだろうし、喧嘩するだけ仲がいいってことなんだろう。 束縛するつもりなんかはまったくないし、捺くんの交友関係が広いのはいいことだと思う。 ただ少しだけ―――。 「ふーん。全然ヤキモチなんて焼かないんだ?」 おかしそうに笑う捺くんは……少しSっ気が入っているような表情だ。 多少はヤキモチを焼いた、というのはあるけれど。 実際二年近くクロくんに対してモヤモヤしていたのを思い出すと、素直に頷くのは男としてのプライドがストップをかけるというか……。 俺を囲うように両手をつき馬乗りになった捺くんを見上げながら、 「別に、妬かないよ? 俺は捺くんを信じてるしね」 と言うけれど、 「ふーん」 と捺くんはやっぱりおかしそうに、楽しそうに笑って顔を近づけてきた。 ちゅ、と触れた唇がまた触れ合いそうなほど近くで動きだす。 「素直じゃないなー、優斗さんってば」 クスクス笑われ、今度は俺がその腕を掴み引き寄せ身体を入れ替えた。 捺くんの手を、指を絡ませてシーツに縫い止めて、まだ笑っている捺くんの唇を塞ぐ。 舌を甘噛みしたら、甘噛みしかえされて、咥内を荒らせば荒らしかえされて。 戯れるようにしばらくキスを楽しんだ。 「俺は、たぶん、なんとなく、おおよそ? 優斗さんのことちゃんと"知ってる"よ」 冗談のように笑いながら言うけれど、 だけど柔らかい眼差しが、"優斗さんのことなら全部わかってるよ"、と言っているようで。 胸をつくなにかに耐えれず、またキスを交わした。 俺にも全部捺くんのこと教えて、と囁いて身体を開いて、愛し合う。 本当にバカみたいに甘ったるい言葉を囁き合いながら何回も何回も身体を重ねていった。 それはまるで永遠に 続く恋みたいな愛で、 きっとずっとこの手は離れないし離されないんだと―――"知っている"。 第6夜 それは、まるで…… HAPPY END.

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