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第17話
「な、なんで!?」
夏休みも残り僅かの日、俺は和の家に来てた。
おばちゃんが出してくれた氷たっぷりのコーラを飲んでた俺は、ただただびっくりして雑誌を放り投げる。
「なんでって……会社からの都合だろ? 詳しいこと俺が知るわけないだろ」
和はうざぞうに言ってゲームを続けてる。
「……」
そんなんわかってる。
でも、気になるんじゃねーかよ!
文句は言いたいけど、それは飲み込んだ。
なんで、って――。逆になんで気にするんだって言われそうだから。
実優ちゃんの叔父さんが帰国したことを……、俺が気にするのは変だから。
『三日前、ゆーにーちゃんが帰国したって』
ついさっき、和が俺に報告してきたこと。
七香伝いで聞いたらしいそれは、なんかわかんねーけど、胸がモヤモヤする。
『実優、マンション行ったり来たりして、今週は忙しいらしい。だから来週遊びにいく――』
夏休み最後にちょっと遠出して遊園地でも行こうかって計画が経ちあがってた。
その日程調整で実優ちゃんがひっかかったってこと。
それも急に帰国することになったらしい叔父さんの身の回りの世話をしてやるために……。
「……ろ」
「あ?」
俺の呟きを拾った和がちらり目を向けてくる。
『世話なんて必要ないだろ』
そんなこと言ったなんて、言えるわけないから「なんでもない」って首を振る。
先月、夏休み前に実優ちゃんがニューヨークに行って、結局帰国したのは夏休み入ってからだった。
2週間近く松原のこと一人にしといて、今度は帰国した優斗さんのために松原をまた一人にして―とか……ありえねーだろ。
だって28だろ?
別に身の回りのことなんて一人でできるだろ。
実優ちゃんちょっと過保護過ぎんじゃねーのか?
松原は――……。
気づけば大事な女の子だったはずの実優ちゃんを非難して、松原のことばっかり考えてしまってる俺。ありえねぇ……。
――でも……俺だったらヤダ。
いくら関係切れてるっていったって、叔父だからっていったって前の男のところに通ってるっていったって。
俺なら――――。
「バカねー、なっちゃん! 逆よ逆ー!」
ぐだぐだ考えてた俺にそう言ったのは和じゃなくってオカマのミッキーだった。
和ん家から夕方帰って、俺はなんとなく従兄のマサ兄がしてるバーに行った。
そこに出勤前のミッキーがいて、こりもせずに俺はミッキーに恋愛相談?をしていた。
もちろん、この前のときのように松原が男だっては言わずに、男女逆転させてだけど……。
「……逆って、なにが?」
ピーナッツをつまみながらミッキーを見ると、ガタイのいいオカマはキモイ笑顔を俺の目前に寄せてくる。
「だ・か・ら~! チャンスってことよ!」
「チャンス?」
「そうそう! だってさ? 元カノが戻ってきて、そこに出入りしてるわけでしょ、その彼氏が」
「ん」
「だからさ~、元カノに頼んじゃえばいいのよ」
「……は?」
「元サヤに戻っちゃえーみたいな~。そんでもってなっちゃんはその隙にお目当てのカノジョを射止めちゃうってわけ!」
「……でも、元カノがいまでも好きかとかわかんねーじゃん」
「まー、そうだけど。でも当たってみてそんはないと思うけどぉ~」
「……」
この前もそうだけど……オカマアドバイス、結構えぐいな……。
なんかこの前からすっげぇ姑息な手使って落とせっていわれてる気がする。
……実際媚薬使ってしまった俺が非難できることじゃねーけど。
「なによ~、反応薄いわねー!」
ミッキーは不満そうに頬を膨らませて「ぷんぷんっ」なんて言ってる。
似合わない、ってことは優しいから言わないでおくけど、ミッキーから視線をそらせて目の前の空になったグラスを見つめる。
グラスには溶けて崩れた氷が入っていて、表面には水滴がいくつもついていた。
俺の曖昧な想いも全部溶けだして蒸発しちまえばいいのに……。
って、俺ってば詩人っぽい!
「……はぁ」
「もうっ! なによ~、辛気臭いんだからぁ!!」
バシバシと強い力で背中をミッキーが叩いてくる。
めちゃくちゃ痛くって顔をしかめてる俺にマサ兄がジントニックを持ってきてくれてそれを飲んだ。
話しはミッキーの恋愛話になって、適当に酒を飲みながら聞き流した。
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