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番外編第5話
「捺くん」
午後3時。終業式だった今日24日。一旦家に帰って羽純ちゃんとの待ち合わせ場所に向かった。
「待った?」
白メインにした私服姿の羽純ちゃんが満面の笑顔で俺のところに走ってくる。ストレートの黒髪が揺れていて、通りすがりの男がちらちら見るくらいに羽純ちゃんは可愛い。
清純派って言葉が似合う女の子だよなー。
「ううん、いま来た」
「よかった。今日は本当にありがとう、捺くん」
「いーよ」
俺も笑顔を返す。昨日はゆっくり優斗さんと過ごせたし、今日もパーティ会場まで優斗さんが迎えに来てくれるから、このバイトの話し聞いたときのショックはもうだいぶなくなってた。
それに優斗さんも知り合いの人からクリスマスパーティに誘われたらしくて少し顔を出さなきゃいけないらしい。
とりあえず俺はバイト後に優斗さんと会うしイブだからかなり気合入れてきた。
ちょっとは大人っぽく見えるようにジャケットなんか着込んだりして。
髪もいつもはわざと跳ねさせてんだけど、今日はまとめてみたり。
「じゃあ捺くん、行こう?」
「うん」
「それにしても今日はいつにもましてカッコイイね」
「そう? ありがと」
へへへ、なんて照れ笑いしながら羽純ちゃんとクリスマス一色の街並みを歩く。
あーこれが優斗さんと一緒ならなぁなんて羽純ちゃんに失礼なことを思ったりしながら、羽純ちゃんについていった。
羽純ちゃんの知り合いがするらしいクリスマスパーティはわりと有名なホテルのパーティ会場を借りてするらしい。
「あ、捺くんあそこ」
パーティの前に準備が結構あるらしくてこうして早めに待ち合わせた俺達。
そして羽純ちゃんが一軒の店の前で止まった。
「ここよ」
にっこりスマイルな羽純ちゃん。
「……ここ?」
「そうよ」
「……」
頷いた羽純ちゃんは笑顔のままその店に入っていく。
俺も仕方なく意味わからないまま――美容室に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。あ、羽純ちゃん、こんにちわ」
「こんにちわ。今日はよろしくお願いします」
「こちらが例の? きゃーすっごく美少年じゃない! 可愛いしカッコイイわー! はじめまして、金里です」
羽純ちゃんの行きつけなのかすっげぇ仲良さそうに美容師さんと喋ってる。
2 0代半ばくらいの美人美容師さんが俺に挨拶してきたから、俺も適当に挨拶返して、羽純ちゃんに視線を向ける。
「羽純ちゃん」
「捺くん」
どういうこと、って俺が言う前に羽純ちゃんが俺の名前を呼んだ。
「パーティ用の衣装にね、ここで着替えることになってるの。あと悪いんだけどせっかくセットしてるその髪もちょっと弄らせてね?」
「へ、あ……ん」
美容室で着替え?
疑問に思うけど羽純ちゃんに背中押されて、そして美容師の金里さんに笑顔で促されて意味がわからないまま俺は店内奥へと連れていかれた。
そして――2時間後。
「……」
「きゃー!!! 綺麗! かわいー!」
「ほんとすっごく可愛いわー!」
「信じられない。もう負けちゃったー!」
「やーん、写真撮りたい~!」
俺の周りに群がる美容師さん達。
仕事はいいのかよ、って突っ込みたくなる俺は笑顔を浮かべる余力もない。
ただひたすら――呆然。
「捺くん、すっごく似合ってるよ」
羽純ちゃんがうっとりとして褒めてくれるけど……。
「いや……ていうか、これどういうこと?」
俺は鏡の中の俺を指さす。
鏡に映る俺は――どこからどう見ても"女"だ。
「え? なにが?」
「え? じゃなくって」
さすがに顔がひきつる。
だってさ、ただの美容室かと思ったら奥の個室ではエステもしてるみたいで、俺脱毛させられたし!!!
そのあとはメイクはじめられて、ふわふわハニーブラウンのロングウィッグ付けられて、しかも衣装だとかいうのはピンクのドレスだし!
その上ブラジャーまでさせられてパッドまで入れさせられて!!
すっげぇ苦しいし、男の子だからっていう理由で低めで用意されてたパンプスはきついし。
「なんで俺こんな格好させられてんの!?」
ありえねーだろー!!!
「だからパーティの衣装」
「だからー!!」
「文化祭で女装してた捺くんを気にいって捺くん指名でこのバイト頼まれたって言わなかったっけ?」
にっこり目を細める羽純ちゃんに俺は口をつぐむ。
確か俺に話し持って来たとき"文化祭での働きぶりを見て"とか言われたんだよな。
そのときなんか違和感覚えたんだけど――……。
「い、言って……ないこともないけど、でも女装するなんてことは言ってない!!」
「そうだったかなぁ? でもそれが今日の衣装だから、よろしくね?」
「羽純ちゃんー!!」
「もうすっごく可愛いよ、捺くん。文化祭のときよりもレベル上だよ! 可愛いし綺麗だし大人っぽいし、すっごく素敵!」
「……」
確かに今日はプロにメイクもセットもしてもらったし、膝丈のドレスもふわふわで可愛いくて、自分で言うのもなんだけどどっからどうみても美少女にしか見えなくて、俺に良く似合ってる。
うん……本当に文化祭以上。
たぶん、これだったらきっと優斗さんも気づかないだろうなってくらいに化かされた。
「とりあえず写真撮る?」
ため息ついてもつきたりない俺とは真逆にのりのりな羽純ちゃんはデジカメを出してくる。
「……いい。つーかさ、あのパーティのバイトって変なのじゃねーよな?」
強制的にオネーサンたちに女装させられている間につのっていった不安。
羽純ちゃんに確認しようと思って聞いたら、
「大丈夫よ」
って笑うけど、本当かよって感じだ。
「捺くんは裏方と、あとは本当に簡単な接客だけ。にこにこ笑顔でいればいいから」
「……あやしい」
「平気平気」
「……」
どうしても羽純ちゃんを信用しきれないけど、もうここまで来てしまったもんはしかたねー。
このバイトを乗り切れば優斗さんといちゃいちゃクリスマスだ!!!
半分ヤケで気合を入れなおす俺。
そしてそんな俺を羽純ちゃんが隣でパシャパシャ写真撮っていた。
――――
――
―…
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