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番外編第6話

「ハルちゃん、これお願い」 「は、はいー!」  パーティが始まって、もう1時間。  俺は――非常に疲れている! 「ハルちゃん、こっちもー」  ハルっていうのは今の俺の……源氏名だ。  羽純ちゃんの知り合いっていうのは羽純ちゃんのお母さんの知り合いで、そんでもってクラブのオーナーさんだった。  いま店舗改装中でリニューアルオープンは来年開けてから。  でもクリスマスパーティはしたいってことで会場借りてすることになったらしい。  会場にはクリスマスツリーや、クリスマスっぽい飾りつけがしてある。  堅苦しい感じじゃ全然ねーし、テレビとかで見る高級クラブでオッサンが~な感じでもない。  指名とかそういうのもなしで今日はみんなでとにかく食べて飲んで楽しむをメインなんだと、オーナーの赤坂さんが言ってたのもわかる雰囲気だった。  でも、大変なのは大変――。  俺は"男"って店側のひとたちにはバラされてるから、なんかやたらこき使われてる。 「ハルちゃーん、こっち来て~」  ちなみに羽純ちゃんは俺を赤坂さんに引き渡すとさっさと帰って行った……。 「はーい」  一応声高めに作って、呼ばれたところに行く。 「君かわいいねー」  なんてめっちゃキレイなおねーさまの横に並ぶと、ちょいハゲのオジサンに言われて。 「そうですかぁ?」  とりあえず営業スマイル。  裏方と簡単な接客、とか羽純ちゃんが言ってたのがやっぱり嘘だったと知ったのはパーティ始まってすぐだ。  くっそー! はめられたー!  そう思うけど、話し振られたらとりあえず笑顔!  今日は俺は夜の蝶だ!!!  なんて自分に言い聞かせてなんとか接客をこなしていった。 「ハルちゃん」 「あ、赤坂さ……美樹ママ」  ふつーに呼びそうになって、慌てて変える。  30代半ばらしい美樹さんは全然年相応に見えねー。  20代でもイケるってくらいに綺麗なオネーサン。  美樹さんに呼ばれて料理とか運ぶ通用口のほうに来た。 「疲れたでしょ? 大丈夫?」 「はぁ、ちょっと。でも若いからへーきです!」  へらっと笑えば美樹さんは「ありがとう」って微笑む。 「ハルちゃんに頼んでよかったわ。文化祭のとき、君見て、絶対イイって思ったのよね!」 「……ありがとうございます」  喜んでいいのか悪いのかわかんねーんだけど。 「そうそう、ちょっと休憩行ってきなさい。慣れないヒールできついでしょ? 15分くらい大丈夫だから。はい、これ化粧ポーチも」 「ありがとうございます。えっと……化粧直し……」 「適当で大丈夫よ」  行ってらっしゃい、って美樹さんに肩をぽんと叩かれて俺はそのまま会場を離れて行った。  とりあえずトイレに行こうって思ったんだけど――。  男子と女子、そのどちらに入ればいいのかで迷う。  いや、この格好だから女子トイレであってんだろうけど、なんか緊張すんなぁ。  きょろきょろあたり見回してからこそっと女子トイレに駆け込んだ。  個室で用足して、化粧直し。  そもそも化粧が崩れてんのかどーかもわかんねーし!  だからリップ塗ってグロスつけて、それだけにしておいた。  女子トイレにずっといるのもなぁー……落ち着かないし。  控室に行こうかなぁ。  そしてまたこそこそ女子トイレを出て、控室のある右手に行こうとした――瞬間  いきなり口を押さえられた。  え……?  なにが起きたのか理解できずにいる俺は、どうやら手で口を塞がれて、そんで……隣の男子トイレに連れ込まれた。  パニクる頭。  ドンってドアが勢いよく閉まって、鍵がかかる音が聞こえて。  そんで押さえられてた手が離れたかと思うと壁に背中押し付けられて、かわりになにか暖かいのが口を塞いだ。  視界が真っ暗で、そして口に触れてるのが、誰かの口だって、わかる。  ――え、えええ!?  変態!? 痴漢!???  一気に我に返った俺は抵抗しようとした。  だけど、押さえつけられて、しかもびっくりした拍子に少し開いた唇から舌が入り込んできて――。 「……っん……ん」  俺の舌を絡め取って吸う舌に、力が抜ける。  あっというまに咥内が熱くなって水音がする。  息もつく暇もないくらい激しいキスに頭ん中がぼうっとなる。  それに、鼻から吸い込む香りに身体も熱を帯びてって――。 「……ゆ……うとさん……」  長いキスの後ようやく唇が離れて――呟いた。

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