111 / 191

第5夜 第3話

 もうすっげぇ腹いっぱいになっていまはソファでくつろぎ中。  優斗さんは松原となんか仕事の話してて、実優ちゃんはコーヒーを淹れてくれている。  俺は仕事の話とかわかんねーしテレビであってたお笑い番組を見ていた。 「はい、お待たせ」  少しして実優ちゃんがコーヒーとスーパーで買ったロールケーキと皿をトレイに乗せてきた。 「俺はいらない」  ウサギのイラストの書かれたロールケーキを見て即座に松原が言う。 「……先生の分は用意してませんー!」  ムッとしたように実優ちゃんがロールケーキ3種類を両手に抱えて俺の隣に座った。 「これは捺くんと私で食べるの!」 「……うん」  正直言ってすき焼き食いまくったせいで今からロールケーキだいたい半分にしても1袋半はきつい。  でも食べるって約束したんだから気合入れて頷いた。 「ご自由に」  松原って本当に俺様って感じだよなぁ、としみじみ思う。  苦笑しながらプレーンから食べようかなぁ、それともとりあえず全部開けるかってロールケーキを手に取った。 「それで……俺のは?」  コーヒーを飲んでいた優斗さんがちらりと俺の持つロールケーキを見ながら首を傾げる。  俺はトレイの上のプリンに視線を移して口を開きかけた。 「ゆーにーちゃんはプリンだよ。これ好きだったよね。昔からプリン好きだったし」 「そうだっけ」 「だって私に作ってくれるおやつもいつもプリンだったし」  唯一の得意だからかな――って笑う優斗さん。  優斗さんの"手作りプリン"の話を知っているっぽい松原は何の気もなさそうに二人の話を聞いていた。  ――とりあえず全部開けるか。  やたら長いロールケーキを袋から取り出してケーキ皿二枚に渡すように置いてみる。  三つ出してみたらやたらボリュームある。 「……食べれるかな」 「美味しそうー!」  幸せそうな笑顔でロールケーキを見つめる実優ちゃんと俺の呟きがかぶった。 「あ、ナイフ忘れてた」  実優ちゃんがハッとしたようにキッチンに走ってって、 「大丈夫、捺くん」  優斗さんがロールケーキと俺の顔を苦笑浮かべて交互に見る。 「……たぶん」  気にかけてくれることが嬉しくて少しニヤケそうになるのを押さえながら曖昧に笑う。 「残してもあいつが食うから平気だろ」 「女の子はデザート別腹っていうしね」  大人二人の意見になるほどと頷いていたら実優ちゃんが戻ってきてロールケーキを四等分しだして皿に盛りつけていった。  なんか……細かくして盛ったほうがボリューム増量したように見える。  食べる前から胃もたれするような感覚にちょっとだけため息ついてロールケーキを食べだした。  まぁでも美味しくてそこそこ食べれたけど。  優斗さんも少し食べてくれたし。  そうしてデザート片付けて、解散する時間が来た。 「気をつけてね、捺くん、ゆーにーちゃん」  松原が送ってくれることになって、実優ちゃんは片付けがあるからお留守番。 「また明日ねー」  靴をはき終えて軽く実優ちゃんに手を振って、振り返されてってしてたら実優ちゃんが思い出したように優斗さんを見る。 「ゆーにーちゃん、来週三者面談よろしくね」 「ああ、大丈夫だよ」  松原とは同棲しているし、実は婚約もしているらしいけど実質の保護者は優斗さん。  だから来週の三者面談は優斗さんが来るっていう話は聞いていた。  実は学校でスーツ姿の優斗さんに会えるのがひそかに楽しみだったりする。 「じゃあね」  ばいばーいと実優ちゃんと別れて三人で駐車場に向かった。  白の高級車の後部席に俺と優斗さんが乗り込んで発進。 「優斗のところでいいんだよな」  松原のマンションから送ってもらうなら優斗さんが先で俺が最後。 「うん。いつも悪いね」 「いや」  だけどいつも優斗さんのことろで俺も一緒に下りていた。  だいたい実優ちゃんたちと食事するのって週末だったからそのまま優斗さんのところに泊ってて。  でも今日は平日だしなぁ……。 「あ、俺は駅でいい」  優斗さんも明日仕事だしと思って言ったのに松原からはバックミラー越しに視線向けられ、優斗さんもすぐに俺を見て。 「送るよ、捺くん」 「遅いんだからちゃんと送ってもらえ」  二人から言われた。 「はーい」  子供じゃねーんだし、ってまぁまだ子供ではあるけど、電車で帰っていいのになー。 「……優斗さん大丈夫?」  こそっと優斗さんの袖引っ張ってみたら優斗さんは小さく笑って、やっぱりこっそりと俺の手を握った。 「大丈夫だよ」  繋いだ手の指が悪戯するように俺の手の甲をなぞってくる。 「じゃあお願いします」  松原がいるから気をつけねーと、と思いながらも結局俺の顔はにやけまくってた。

ともだちにシェアしよう!