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第5夜 第2話
3年になって1週間以上過ぎた。
担任もクラスのメンバーも2年のときとかわんねーからとくに真新しいこともない。
そういや来週は三者面談だったなぁ。
でも今月はゴールデンウィークあるから結構楽だよなー。
とくにどこいくって予定はないけど、優斗さんと一緒にいれればいーし。
シャーペン指で回しながら一応黒板見て、でも頭ん中は勉強のことなんか全然ない。
ぼうっとしている間にチャイムが鳴りだした。
学級委員長が号令出して挨拶して授業は終わり。
いまは5時限目で今から10分間の休みだ。
教科書とノート片付けていたら俺の机のところに人影。
「捺くん」
顔を上げたら実優ちゃんが来ていた。
「どうしたの?」
優斗さんとちょっと似た優しい笑顔を俺に向けていた。
「あのね、お昼休み終わるころに先生からメールが来てたんだけど」
実優ちゃんの言う先生っていうのは松原のことだ。
二人は付き合ってて今同棲中。
「お肉をもらったんだって! それですき焼きしようって話になったんだけど、捺くんも今日一緒に食べない? 量が結構多いらしいんだ。ゆーにーちゃんには先生が連絡しておくって言ってたよ」
今日は水曜日。
優斗さんの会社は水曜日をノー残業デーに設定してるから、たぶん優斗さんは行くはずだ。
「……うん。行こうかな。松原がもらったってことはすっげぇ高級そうだね」
「そうだよね!? いまからお腹すいてきちゃう!」
「もう? 早いよ」
笑いながら受け答え。
こうして実優ちゃんから夕食の誘いを受けるのは初めてじゃない。
優斗さんと俺のことは松原たちには話しているから。
それに優斗さんは実優ちゃんの叔父さんだからたまに会うし、俺はその優斗さんと付き合ってるし実優ちゃんの友達でもあるし。
だから月に一回くらいだけど一緒に食事することがあった。
「じゃあ学校帰りに買い物してく?」
「うん、いい?」
優斗さんの姪の実優ちゃんは相変わらず可愛い。
屈託のなくのない笑顔にピースサイン向けて俺も笑顔。
「もちろんだよ。肉ゴチになるし、いーっぱい荷物持つよ」
「ありがとう」
すき焼き楽しみだねーなんて話して――俺はトイレに行くからと教室を出た。
トイレ行って本当は用足す気もなかったけど個室に入ってスマホ取り出す。
優斗さんあてのメール作成。
実優ちゃんと一緒に買い物して松原のマンションに行ってるっていうのを送信しておいた。
仕事中だからすぐ返信がないのはわかってる。
特に何の意味もなくそれからチャイムが鳴るまでスマホ弄って、教室に戻った。
放課後になって和たちと途中まで一緒に帰って、最後は実優ちゃんと二人。
帰り道にあるスーパーに寄って買い物をした。
白菜にネギに―――て二人で選びながらぼんぼんカートに乗せたカゴにいれていく。
「あ、美味しそう」
実優ちゃんが足を止めたから俺も止まって見てみる。
そこはデザートコーナーでシュークリームやロールケーキなんかが並べてあった。
「俺、これ好き」
ウサギの絵がついた長いロールケーキを指さしたら実優ちゃんも顔を輝かせて頷く。
「私も! 美味しいよね」
「うん。買う?」
「買う! 三種類あるんだね」
「俺、ふつうのしか食ったことないな」
「私も。じゃあ三種類買おうか?」
「そうしよ」
三つカゴにいれていった。
「つーか、松原ってこういうの食う?」
「……先生は食べないかなぁ」
苦笑する実優ちゃんに俺も「だよなあ」って笑って、優斗さんはたぶん食べてくれるよなぁって思った。
甘いものすごく好きってわけじゃねーだろうけど、食べないわけでもねーし。
「先生は別にいいよ。――あ、これ」
ため息混じりに言った実優ちゃんがデザート類見渡してプリンを一つ手に取った。
「ゆーにーちゃん、これ好きだから、ゆーにーちゃんにはこれにしよっか」
実優ちゃんは笑顔で言って俺が初めて見るプリンをカゴにいれた。
「――うん。じゃあレジ行こうか」
「そうだね」
カゴの中は結構買い込んだから山盛りになってる。
それから俺達はレジに並んで買い物を済ませた。
袋三つにもなって、俺は二つ実優ちゃんが一つ持って帰る。
実優ちゃんと学校のことや松原のこと優斗さんのことを話しながら歩いていると松原のマンションまであっという間だった。
話は尽きなくて、たまに立たせてもらうキッチンで並んで下準備した。
「でね、ゆーにーちゃんがね」
「へー、そうなんだ」
笑いながら白菜切って、豆腐切ってザルにいれて水切りしいていって。
どんどん準備は進んでどんどん時間は経っていく。
下準備を終えて、そういやとズボンからスマホ取り出したら優斗さんからメールが来ていた。
『返事おそくなってごめん。遅くても7時には着きそうかな』
そんな内容が書いてあった。
それに『待ってるね』って返信して、実優ちゃんが出してくれた紅茶飲みながらまたお喋り。
実優ちゃんは優斗さんの姪だから、いろんな優斗さんの話が聞ける。
――俺の知らない優斗さんのことが、たくさん。
早く肉食いてーな。
テレビ見て喋りながら、どこ牛だろー、なんてくだんねーこと考えてた。
最高級らしい牛肉を土産に松原が帰ってきたのは7時前で優斗さんも一緒だった。
松原が優斗さん迎えに行ったらしい。
「お帰りなさい」
ふたりがリビングに入ってきて実優ちゃんが笑顔で出迎えるのを俺はソファで眺めていた。
もちろん「おかえりー」って声かけて。
松原は「肉」と短く言って紙袋を実優ちゃんに渡していた。
結構量ありそうで期待度が高まる。
じーっと紙袋を見つめていたら隣に優斗さんが座ってきた。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
よそ様の家だからちょっとかしこまって挨拶するけどすぐに笑いあう。
「仕事お疲れ様です」
「捺くんも学校お疲れ様。買い物も一緒にいったんだよね。ありがとう」
「ううん、別に。つーか早く食いてえ!」
「そうだね。俺もお腹空いたかな」
二人っきりじゃねーからべたべたしたりはしないけど、肩が触れ合うくらいの距離には座ってる。
それだけでかなりテンションあがる俺って現金だなーって自分に内心苦笑。
「ゆーにーちゃん、はい、お茶」
松原は寝室に着替えに行って実優ちゃんが優斗さんにお茶を淹れてきた。
「ありがとう。もう準備は出来てる?」
「うん、捺くんと一緒にしたからあとはもうお鍋に入れるだけだよ」
「そっか」
二人が喋ってるのを聞きながら俺はぼーっとキッチンに置いてある肉を眺めた。
何牛だろ、めっちゃ気になる。
「――待たせたな」
部屋着っていってもたぶん俺と優斗さんが来ているから普段着程度に着替えた松原がリビングに戻ってきた。
肉を見ていた俺と松原の目があって、にやっと笑われる。
「がっつくなよ」
「……がっついてねーし」
口尖らせて言い返して、それからみんなでダイニングテーブルについた。
実優ちゃんと松原、その向かいに俺と優斗さんが並んで、テーブルの真ん中に置かれたすき焼き用の鍋。
意外にも松原は鍋奉行だったらしく手際よく鍋に食材を入れていく。
甘辛い匂いがめちゃくちゃ腹に響く。
「「いただきまーす」」
しばらくして松原が食べていいって言ったから実優ちゃんと二人手を合わせて勢いよく鍋を食べだした。
「がっつくなって」
呆れたようにため息をつく松原と、苦笑している優斗さん。
「あつっ、ウマー!」
さすが松原のお土産って感じで肉がめちゃくちゃウマい。
いままで食べた中で間違いなく№1だな。
「優斗さん、すっげぇうまいよ!」
「――うん、ほんとだ」
まじうまくって肉ばっかりバクバク食ってたら、
「野菜も食え」
って松原に山盛り野菜ばっかり入れられた。
「えー! 俺育ちざかりなんだけどー!」
「大丈夫だよ、捺くん。まだお肉いっぱいあるから」
「ありがとー、実優ちゃん!」
「甘やかすな」
「ひっでぇ」
「――はい、捺くん」
俺の陣地から肉を移動させる鬼畜松原に口尖らせてたら、優斗さんが笑いながら俺の取り皿にこっそり肉を入れてくれた。
つっても松原はしっかり見てて、
「優斗、あんまり甘やかすな」
なんて言ってる。
いつのまにか松原と優斗さんはお互いを名前で呼ぶようになっていた。
まぁ二人は同い年そっちのほうが自然なんだけど、優斗さんを呼び捨てにすんなーってちょっと思う。
だって俺だってまだ呼び捨てじゃねーのに。
って、すっげえくだんねえ、嫉妬。
「うっせー。らぶらぶだからいいーんだよ」
舌出してヤケクソで野菜食いまくってたら優斗さんと実優ちゃんに笑われた。
それから肉も野菜もバランス良く食って、食いまくって優斗さんや松原も結構な量食って鍋は空になった。
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