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第5夜 第5話

 あっという間に一週間は過ぎて三者面談が始まった。  俺は来週で今日は優斗さんが実優ちゃんの三者面談で来る日だった。  行ってくるねー、って実優ちゃんが七香たちに言って自習中の教室を出ていく姿を見送る。  さっきスマホが鳴ってたみたいだからもう優斗さん着いてるんだろうな。  会いたい気持ちはあるけど、いまから三者面談なんだから黙って自習のプリントを眺める。  でも全然集中力なんかない。  シャーペンで机を小突きながら教室を見回す。  七香と羽純ちゃんは机を並べて喋りながらプリントしているみたいだ。  和は――寝てる。  俺も寝ようかな、とか思いながら結局、それから数分もしないうちに教室を抜け出してた。  他のクラスは授業中だから静かに三者面談のある教室近くに向かう。  優斗さんだけじゃなくその前後の保護者も来てるだろうから目立たないようにしなきゃなー。  階段のぼっていってこっそり角から隠れて見てみた。  三つ離れた教室で三者面談はしていてその前に実優ちゃんと優斗さんがいた。  学校でスーツ姿の優斗さんを見れるなんて貴重だ。  パッと見ると教師でもいけそう。優斗さん知的な感じだし。  優斗さんが教師だったら学校毎日楽しいんだろうなー。  まるでストーカーみてぇに優斗さんを見ているダセエ俺。  優斗さんは優しい顔して実優ちゃんとなんか話してる。  ――まぁ、優斗さんはいつでも優しいけど。  あたりまえだけど"叔父"と"姪"だから、ふたりはすげぇ仲良さそう。  ――まぁ、よさそうじゃなくていいんだけど。  ……ってダセェ上にウザイな、俺ってまじで。  いい加減自分にうんざりしながらその場を離れた。  いまから三者面談なんだからまだ時間はかかるだろうし。  つーか優斗さん仕事抜けて来てるんだろうから俺に会う時間なんかねー……よな。  階段をさらに上がっていって、屋上には出ずにその手前で座り込んだ。  スマホ取り出して時間眺める。  三者面談終わるくらいに連絡してみようかな。  悩みながら、きっといま優斗さんはマナーモードにしているはずだろうし、終わったら連絡ほしいっていうメールだけ送っておくことにした。  送信ボタン押して少ししたらメール受信してびっくりして開いたら和からだった。 『どこ行ってんだよ』  いちいち口うるさいメール。 「……バカ和」  めんどくせーから『トイレ』とだけ入れて返信しておいた。  そして優斗さんからメールが来たのはそれから20分後のことだった。  メール見てすぐに階段を下りていく。 『面談終わったよ。捺くんは教室だよね』  そう入ってたけど教室いねーから、なんて返信しようかなーと思ってたら、 「――よ」  優斗さんの声がした。  階段の手すりから下を見ると、踊り場に優斗さんと実優ちゃんがいた。  本当に終わってすぐメールくれたんだって少し嬉しくなりながら――面談のことを話している二人を眺めた。  話終わってから声かけたほうがいーのかな。  実優ちゃんと別れてから声かけた方がいーのか悩む。  でも実優ちゃん外まで送っていきそうだし……やっぱ先に……。  視界の中でやっぱり二人は楽しそうに笑ってる。  そんで優斗さんが実優ちゃんの頭を優しく撫でて――。 「……」  とりあえず先にメールしておくことにした。  階段の壁際に座り込んで、できたら少しだけでも会いたい、ってメール作って送信。  しばらくそのままいたら階段を下りていく音が聞こえてきた。  それでもそのままいたら数分後メールが来た。  一階の玄関口にいるって内容で、階段を駆け下りていく。  ソワソワしながら行くと一人立っている優斗さんがいた。  それに――ホッとしながら声をかける。 「優斗さん!」 「捺くん」  すぐそばに駆け寄る俺を笑顔で迎えてくれる優斗さん。 「よかった、会えて!」 「俺も。……でも、捺くんいいの、授業?」 「えーと、まぁ自習だし」  絶対ツッコまれると思った。  少し苦笑に変わった優斗さんを上目遣いで見てその手をそっと握って、 「……だってさ、学校で会えるなんてめったにないから会いたかったんだ」  ダメ?、って首傾げてみる。 優斗さんはやっぱり苦笑いだったけどすぐに「俺も会いたかったよ」って優しく目を細めてくれた。 「……優斗さん。仕事はすぐ戻んなきゃなんだよね?」 「そうでもないよ。急いで戻る必要はないかな」 「そっか。……――ね、優斗さん。ちょっと」  繋いだ手を引っ張る。  なに、と訊いてくる優斗さんに、校内案内したい、っていうと笑って頷いてくれた。  校内案内なんていうのはただの口実。  もう少し一緒にいたいなー……ってだけ。  夜に会う約束でもすりゃーいいんだけど、いま、一緒に居たい。 「なんか変な感じだね」  校舎の中、使われていない教室とか準備室なんかが並ぶ塔の廊下を二人で歩いてたら優斗さんが俺の指に指を絡めながら言った。 「なにが?」  人気がないから手も繋いでるけどドキドキする。 「いやこうして高校で捺くんと一緒にいるとかね。少し高校時代に戻った気分」 「まじで? 優斗さんが同級生……、うーん、先輩かな、やっぱ! 先輩だったらすっげ楽しそう!」  優斗さんはやっぱ同年代だったとしても年上っぽい感じする。  まぁ同い年だったとしても、落ち着いた感じの同級生っていうのでアリはアリだけど。 「先輩後輩か。面白そうだね」 「でしょ? ね、優斗さんって高校のときどんな感じだったの」  付き合ってだいぶたつけどあんまり昔のこと聞いたことはなかった。 「うーん……、勉強ばかりしてたよ」  懐かしそうに目を細める優斗さんの横顔を眺めながら、教室にいる優斗さんを想像してみる。  きっと昔から真面目で優しかったんだろうな。  簡単にちゃんと先生の話を聞いて勉強している優斗さんが目に浮かんだ。 「頭良かったでしょ?」 「どうかな……?」  苦笑するけど、その苦笑は照れ隠しっていうか誤魔化す感じがしたから、すっげえ頭良かったんだって思える。  だって今の会社だって一流企業だし。 「部活とか入ってなかったの?」 「んー、忙しくて部活には入ってなかったかな」 「忙しいって?」 「……生徒会に入ってたから」 「えっ!?」  生徒会とかって、イメージ合いすぎだろ。 「なんの役職だったの?」 「……んー……1年のときは書記で2年は会長かな」 「……マジで!? すっげー! なんか優斗さんって昔からエリートって感じするもん! なんかわかる!!」  ちょっと興奮。  だってなんか昔の話だけど生徒会なんて無縁の俺からすると生徒会長なんてすげぇとしかいいようがねーもん。  だけど優斗さんは一瞬ほんの少し顔を曇らせたような気がした。  あれって思ったけどすぐに優斗さんはもとの笑顔になって「そういえば」と思いだしたように俺を意味深に見つめる。 「智紀も高校生のときは生徒会長だったんだよ。この学校の」 「……あ、なんか聞いたことある気がする」 「実はそのとき一度会ったことがあったりする」 「……えええ!?」  これにはまじでびっくりした。  智紀さん懐かしい……ってたまにみんなで会ったりはするけど、まぁいろいろあったから優斗さんと智紀さんの意外な接点に驚きはでかい。 「生徒会同士の親睦会みたいな感じかな。もう一校別の高校を加えてね。たしか晄人はめったにかからない風邪にかかって休みで会ってないけど」 「へぇ」 「だから去年文化祭で智紀と再会したときはびっくりしたな」 「……」  文化祭……。  やべぇ顔引き攣りそう。  さりげなく頬を抓りながら繋いだ手に軽く力を込めた。  目があってやっぱりちょっと引き攣りながらも笑う。  優斗さんは可笑しそうに口元を緩めたから、ちょっと一安心。 「……でも、うらやましいなぁ。智紀さんと松原って優斗さんと同い年なんだからどっかで会ったことあってもおかしくねーんだよなぁ。俺も同じ高校だったら絶対生徒会入ってたのに!!」  頭は悪くてもまぁ顔でイケ……ねーかな。  そんな不毛なことを考える俺に優斗さんが声をたてて笑う。 「そうだね。本当に俺も捺くんと高校生活味わってみたかったよ」  ――実優が羨ましいな。  続いた言葉に、俺はそう言ってくれたことがめちゃくちゃ嬉しくて――だったら二人の関係はどうなっていたんだろう、ってバカすぎることを考えた。  父と姪じゃなくて、もし兄と妹とかだったら。  つーか、もし血のつながりなんかなくていま優斗さんがクラスメイトにいたら。  なんて、くだらねー。くだらなすぎる"もしも"の話だ。  あんまりにもくだらなくて自分に笑いが出る。  馬鹿じゃねーの、と自分に悪態つきながら、でもきっと二人はずっと一緒にいそうだ。  ――実優ちゃんは優斗さんの"特別"だから、たとえ妄想の中でも二人の絆は消えそうになかった。 「……捺くん?」  どうやらぼーっとしてたらしい俺の顔を優斗さんが覗き込む。 「どうかした?」 「……え、っと、その……もし俺達が高校生で付き合ってたらって妄想してた」 「へぇ、どんな?」 「……」  もやっとした邪な考えが浮かんで、打ち消して、でもやっぱ少しだけならいいかなってまたバカなことを考える。  ずっと意味なく歩いていたけど、いま俺達がいる場所は俺の秘密の場所があるところだった。

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