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第5夜 第6話

「……ちょっと、こっち来て」  ポケットを探って出てきた鍵。それですぐ近くの資料室とかかれた部屋を開けた。 「ここは?」  不思議そうに中に入る優斗さんに視線をなかなか合わせることが出来ずに答える。 「んーっと……古い資料とかが置かれてるんだって。10年以上前の学校資料とか? よく知らねーけど」  部屋の中には天井まで届く棚が置いてあって、段ボールなんかが詰め込まれている。  窓ははめ込みの窓が一つあってその前に作業用らしい机と椅子がひとつあった。 「ふーん。でもなんで鍵持ってるの?」  まだ不思議そうにしてる優斗さんがさらに訊いてきて、へらっと誤魔化すように笑う。 「先輩に一年のとき貰ったんだ」 「……先輩?」 「う、うん」 「女の?」 「……うん」  バレバレだし!!  たぶんなんとなく優斗さんは気づいてんだろう。  授業が行われてる教室から大分離れたところにあるここが全然人気なくて、それでまったく使われてなさそうな様子で、ここがどういう使われかたしてるとか。  ……ようはヤり部屋なんだけど。 「……えと、そのちょっと気にいられただけだから!」  フォローになってねぇぞ!  自分にツッコミながら顔を引き攣らせると、優斗さんは首を傾げて悪戯に目を細めた。 「へぇ。そっか。ちょっと、ね?」 「……も、もう卒業していないし! それにいまは……」  ぶっちゃけキレイくらいしか覚えてない先輩のことはどうでもいい。  一旦離れてた優斗さんの手を握ってちらりと視線を合わせた。 「キス、していい?」  優斗さんが目を眇める。  その唇が動く前に、俺は自分の唇を押し当てた。  学校の、それも埃っぽい資料室で優斗さんとキスしてるとか不思議だ。  でもなんとなく舌はいれないで触れるだけで離れた。  至近距離で優斗さんが笑ってその吐息がかかる。 「あれ、もう終わり?」 「……えと、じゃあ、もうちょっと」  また唇を触れ合わせて今度は舌を差し込む。  すぐに優斗さんの舌が絡んできて腰を引き寄せられた。 「ん……ん……」  やばい。  学校でとかいままでにない場所だからか変に興奮する。  舌吸って吸い返されてひたすら絡めあって身体が熱くなってくる。  一度深いのをすると止まらなくなって、頭の中が溶けそうになりながらキスをし続けた。 「……捺くん」  唾液で濡れた唇が色っぽくて離れてもまたすぐにしたくなる。  追いかけるようにまたキスしようとしたら今度は止められた。 「続きは今夜ね?」  今日は金曜日。だからこう言ってくれてるってことは泊りに行っていいってことだ。 「……ん」  正直息子は反応しかけてるし名残惜しいけど仕方ないのかな、って小さく頷く。  そしたら優斗さんがぽんと俺の頭に手を乗せて撫でてきた。  よく優斗さんは頭を撫でると思う。  癖なのかもしれないけど。  ――……さっきも同じように俺以外の頭を撫でていたシーンを思い出して、なんか……なんか、胸に棘が刺さる。 「……最後にもう一回だけ」  言いながら唇を合わせたらやっぱり止まらなくなる。  シたい。  けど、無理だよな。  そう思いながらも俺は腰を押し付けるようにしてキスを続けた。 「……な……つ、くん」  肩を押さえられて優斗さんが顔を離す。  それでも追いかけてキスした。  もう硬くなってる俺の息子をさらに押し付けて舌を追いかけて吸い上げて。  俺を離そうとしていた優斗さんの手の力が少し緩むのを感じながら唾液を絡めて舌絡めて糸が引くくらいにキスしまくった。  お互い熱い息が濡れた唇にかかってゾクッとする。 「……優斗さん、シよ?」  抱きついたまま見上げて囁く。  優斗さんは困ったように眉を下げるけど、その目は欲に濡れてる。 「でも……学校だから、ね?」  宥めるように俺の頭を撫でる優斗さん。 「……平気だよ。ここまじで誰もこねーし……」 「んー……、でもね」  真面目な優斗さんがここでシてくれるなんて思ってはないけど。  俺の髪を撫で続けながら弄る優斗さんの指に――なんか、なんだろ、よくわかんねーけど胸がジクジクするのを感じて優斗さんのベルトに手をかけた。  けど、外せなかった。 「捺くん? どうしたの」 「……ごめん。なんかほら学校で優斗さんに会えたから盛ったみたい」  だっせぇ自分がイヤで優斗さんと目を合わせられないままベルトに触れてた手を動かして優斗さんの背中に回した。 「シなくていいから、もうちょいこうしてたい」  前から付き合ってる相手には結構甘えるほうだったけど、なんだろ優斗さんには一層ひどいような気がする。  くっついてもヤっても足りない。  好きで、好かれてってわかってんのに――。  最初のころはただ幸せで浮かれてバカみたいにベタベタしててそれでよかったのに、いつからか気づいたら足りないって思うようになってた。  足りない? のか、なんなのかわかんねーけど……。  ただひとつわかるのは……俺は優斗さんに好かれてるってわかってるけど、でも優斗さんには"特別"がいるってこと――。  それが恋愛感情じゃないってわかってるから、だから、気にはしない、けど。 「……捺くん」 「……うん?」 「鍵は閉めた?」 「……え? うん」  優斗さんの手が俺の頬に触れて顔を上げさせられる。  甘い笑顔をした優斗さんが目に映ってすぐに唇を塞がれた。 「……んっ」  唇を甘噛みされて舌が入り込んできて歯列をなぞる。  優斗さん主導のキスに翻弄されて、また体温が上がってく。 「俺も一応我慢してたんだけどね」  苦笑混じりの呟きが聞こえたと思ったら優斗さんの手が制服の中に入ってきた。 「ゆ、優斗さん?」 「うん」 「あの、学校だし」  まさか優斗さんがスるはずねえよな、とは思うけど。 「あれ? さっきまで誘われてたのは俺のはずだったんだけど。もうあのお誘いは無効?」  からかうように優斗さんが間近で俺の目を見つめて首を傾げる。 「……そうじゃないけど。でも……ッン」  シャツの裾から素肌に触れてくる手が背中をなぞって、それだけで身体がびくつく。 「でも? 俺だって捺くんとシたいよ」  密着した身体。  さっきまでは気づかなかったけど、よく感じてみれば腰のあたりに硬いものが触れてるのがわかる。  その熱が嬉しいけど、いいのかなって戸惑って見つめ返すと今度は耳を甘噛みされた。 「……んん……っ」  身体を疼かせる手と、耳孔を這う舌に優斗さんにしがみついて呼吸を乱す。 「それに……ヤキモチも妬かせられたしね」 「……へ」 「俺の知らない誰かと一緒にいた場所に連れてこられて妬かないわけがないだろ?」 「……」  ここに女の子と来たことは確かにあるけど昔のことだ。  だけど、でも変に嬉しかった。 「……優斗さんでも妬くんだ」  ボソッと呟いたら噛みつくようにキスされた。 「そりゃ妬くよ。捺くんの全部が俺のものだったらいいのにって思うくらいに独占欲強いからね」 「……」  たぶん俺の顔はだらしなく緩んだと思う。  目を細めた優斗さんがぺろっと俺の唇舐めて、そして首筋に顔を埋めてきて。  ちょうどそのときチャイムが鳴りだしたけど、優斗さんは手を止めずに行為を進めてきた。  休憩時間に入ったからもしかしたらこの資料室には来ないかもしれないけど前の廊下を通る人はいるかもしれない。  だから気をつけなきゃなんねー、のに、優斗さんはいつも通りにっていうか、いつもより少し意地悪に俺を煽りたてる。

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