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第5夜 第12話

 実優ちゃんは煙草を吸い終えて戻ってきた松原に無理やり一口食べさせたりしてる。  そんでもって俺達は、 「ほら、あーん」  言ってんのは俺じゃなくって優斗さんで、からかうような笑顔を浮かべながら俺の口元にソフトクリームを持ってきてた。  まわりは家族連れやカップルが多い。  そんな中で男同士の俺達が……って思うけど、優斗さんは俺が食べるまでずっと待ってそうだったから少し恥ずかしかったけど食べた。 「美味しい?」 「……うん」  これが紫陽花味かー……、ってよくわかんねーけど、まずくはないし普通に美味しいから頷く。  優斗さんも俺の次に食べて「美味しい」って笑ってた。  それから交互にソフトクリーム食べて。 「先生もあーん!」  俺達のを見て羨ましかったのか実優ちゃんも松原に何度か食べさせようとしていたけど、最初一口食べただけで「いらねー」って松原は全然食べなかった。  相変わらずの俺様で、そしてそんな松原に拗ねてる実優ちゃんは可愛くて。  久しぶりになんだか素直に楽しい時間だった。  そのあとソフトクリームを食べ終えて、宿に向けて出発することにした。  客室露天付きらしいからすっげぇ楽しみ。  公園から宿までは優斗さんが運転することになっていたから俺は助手席。  車の中ではみんなでさっきの公園のこととか他愛のないことで盛り上がって宿にはあっという間に辿りついた。 「すっげー!」  なんか高級そうな旅館は中に入るとオシャレでびっくりした。  家族旅行とかはたいていホテルだし。  あ、でもお正月に行った温泉宿もすっごい静かな山奥にある離れタイプの宿でよかったな。  ロビーできょろきょろしているうちに松原がチェックインしてくれた。 「じゃあしばらくは部屋でゆっくりってことで」  松原が言ってそれぞれ頷く。  仲居さんに案内してもらって部屋についた。  二間ある和室の部屋で、正面の一面の窓の向こうに露天風呂があった。  その向こうには山が広がってて新緑が綺麗だ。  窓を開けて景色を眺めている間に仲居さんがお茶を淹れてくれてから部屋を出ていった。 「なんかいいところだね」  結構暖かいから窓は開けたままにして座椅子に座ってお茶を飲んでいる優斗さんの隣に腰を下ろす。  普段緑茶とか飲まないから、意外に美味しいな、なんて思いながらすする。 「そうだね。静かなところだし。ゆっくりできそうだね」 「うん」 「少し横になっていたら? まだ少し眠いんじゃないの、捺くん」  俺の顔を覗き込んだ優斗さんが前髪に触れてきながら目を細める。 「だいじょーぶ。……あ、でも」 「なに?」  車で少し寝させてもらったときのこと思い出してちょっと上目遣いに言ってみた。 「あれ、もう一回したい」 「あれ?」 「膝枕」  俺の言葉に優斗さんは一瞬きょとんとしたけどすぐに笑って膝を叩いた。 「どうぞ」  車の中では実優ちゃんたちもいたから恥ずかしかったけど、いまは二人きりだ。  遠慮なくごろんと横になった。 「あー、なんかイイ感じ」  俺ってオヤジ臭いかな、なんて思いながらも伝わってくる優斗さんの体温ににやにやしてしまう。 「俺の膝でよければいつでも貸すよ」  言いながら優斗さんはまた俺の前髪を撫でてくる。  優斗さんの指にすくわれて落ちてくる髪がくすぐったいけど気持ちいい。 「あとで風呂入ろうね」 「もちろん」 「あ、大浴場も行きたい。そっちにも露天あるんだよね」 「らしいよ。一緒に行こう」 「うん」  そんなことを話してたら自然と欠伸が出た。 「眠い?」 「んー……ちょっとだけ」  優斗さんが髪をずっと撫でてるし、膝枕が暖かくて気持ちいいからか朝の眠気がぶり返すようにだるくなってきた。 「少し寝ればいいよ」 「でもなー……」 「じゃあ目だけでもつぶってれば? それだけでもだいぶ違うよ」 「……うん」  優斗さんの顔をずっと見上げていたかったけど、少しだけと思って言われるままに目を閉じた。  窓から風が入ってきてちょうどいい気温でそれも気持ちいい。  それから少し優斗さんと喋っていたけど、結局また俺は優斗さんが髪を撫でる心地よさに、いつの間にか寝てしまっていた。 ――――― ―――― ――― ごろんと寝がえり打って柔らかい感触にぼうっと眼を開けた。  見覚えのない壁や畳、そしてベッドじゃなくて布団に寝ていることになんでだろうって思う。  どこだっけ――って考えて、ああ、と思い出しながら身体を起こした。  寝起きでいまいち働かない頭を掻きながらあたりを見回す。  来た時にはなかった布団が敷かれてて俺はそこに寝かされて。  襖が開いたままの最初にいた隣には優斗さんの姿はなかった。  とりあえず起きて隣室に行ってみる。  空になった湯のみが二つ重ねてお盆の上に置いてあって、そしてもう一つメモ書きがあった。 『散歩に行ってきます。すぐ戻るよ』  綺麗な字で書かれてある。  窓の方をなんとなく見るともう閉められていた。  何時だろうって時計探して、チェックインしてから二時間以上経ってることを知る。 「あー……サイアク」  ため息が勝手に出た。  だって俺が寝たのってたぶんこの部屋に来てからそんなに経ってないはず。  行きの車でも寝て、ここに来ても寝て、せっかくの旅行なのに優斗さんに迷惑かけてばっかりだ。  もっと満喫するつもりだったのに。  寝てばっかりな自分にまたため息が出ながらテラスに出てみた。 「優斗さんどこらへん散歩してるんだろ」  この旅館は温泉宿が集まっているところから少し離れた山の中にあった。  テラスから下は木々に囲まれてるけど小道がある。  その辺歩いてないかなーって眺めてたけど見当たらなかった。  少しそのまま涼しい風に吹かれて、そういやって気づいた。 「電話すりゃいいんじゃん」  なんで忘れてたんだろ。  散歩だけどスマホは持って行ってるだろうし、電話してみるか。  部屋に戻ろうとして――目の端に人影が映った。  なんとなくまた外に視線を戻して 「あ」  テラスの手すりから身を乗り出した。 「――優斗さ……」  声をかけようとして、止めた。  優斗さんは笑って、楽しそうに喋ってる。  その隣にいる実優ちゃんと。

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