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第5夜 第22話
『実優ちゃんの具合どう？』
『まだ38度台の熱が続いてるんだ』
学校が始まる前に送ってたメール。
今日の分のテストが終わってスマホ開いたら返信がきてて。
全然実優ちゃんの具合がよくなってないことを知った。
「おい、帰るぞ」
SHRも終わって明日はテスト最終日。
でもラストに英数って最強教科が揃ってるから気が抜けない。
カバン片手に教室のドアのところから和が声かけてくる。
「あー」
適当に返事しながら俺も教室を出る。
七香と羽純ちゃんは図書室に寄って帰るらしい。
二人のところには実優ちゃんがメール送ってきたそうだから、少しは動けるってことなのかな。
とくに和と会話することもなく帰り道を歩いていく。
「和くん」
「……キモイ」
勉強めんどくせーなーって考えながら二歩くらい前を歩く和に声かける。
「俺、実優ちゃんのお見舞い行ってくるわ」
優斗さんのマンションの鍵は持ってる。
いま仕事で優斗さんはいなくて実優ちゃんは一人寝てるんだろうし。
たぶん――優斗さんすっげぇ心配してるだろうし。
「……ああ、わかった」
和も心配そうだからついてくるっていうかと思ったけどなにも言わなかった。
コンビニに寄って、見舞いって実優ちゃんへのプリンを買って渡すようには言われたけど。
たぶんなんでもそろってるとは思うけど、一応俺もゼリーとか食べやすそうなの選んで買ってみた。
和と別れてコンビニ袋ぶら下げて優斗さんのマンションに向かう。
今日の空は少し曇ってて雨が降りそうな感じもする。
天気予報とか見ないから降水確率とかしらねーけど。
雨降るなよー。
って念じながらマンションに到着。
実優ちゃん寝てるだろうからそのまま部屋まで上がっていった。
合鍵であけて入った優斗さんのいない部屋。
シンとしてて人気なんてなさそうなのに、実優ちゃんの部屋に実優ちゃんが寝てる。
優斗さんの部屋の向かいにあるドアを小さくノック。
返事を待ったけど、なかったからそっとドア開けて中を覗き込んだ。
「……実優ちゃん。寝てる？ 捺だけど」
薄暗い室内。
ベッドに寝てる実優ちゃんのそばにいくと昨日と変わらない様子で熱っぽい息を辛そうにはいてた。
優斗さんが見てて上げられないからか、今日は冷えピタを貼ってある額を少し触ってみる。
効力なんてなさそうなくらい熱くなってる冷えピタ。
額自体もはっきり熱があるってわかるくらい熱かった。
冷えピタ変えたほうがいいかな。
氷枕はまだ大丈夫そうだけど。
俺が触れたせいで散らばった前髪を綺麗に戻してると、実優ちゃんのまぶたが動いた。
「……ゆー……にーちゃん…？」
か細い声が具合がすっげぇ悪いんだろうなっていうのを思わせる。
「……ううん。捺」
ごめんな、優斗さんじゃなくて。
「……捺…くん？」
ぱち、ぱちとゆっくり瞬きしてぼんやりと実優ちゃんは俺を見た。
「ごめん、起こして。お見舞いに来たんだ」
身体を起こそうとする実優ちゃんを寝てていいよって止める。
「……ありがとう。ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。熱、まだ高そうだね」
顔を赤くさせている実優ちゃんは頬に手をあててため息をついた。
「……ん。まだちょっときついかも」
「薬は飲んだ？」
「朝、飲んだよ」
「じゃあさ、俺昼過ぎまでいるからさ、お昼になったらなんか持ってくるよ」
「……でも」
いいの、って心配そうにする実優ちゃんに笑いかける。
「今日はテスト勉強以外することねーし。勉強だけならどこだってできるしさ。俺いるから、寝てて。なんかいるものあったら持ってくるから。あ、和からプリンのお見舞いと俺はゼリー持ってきたから食べたいときは言ってね」
コンビニ袋を持ち上げて見せると、実優ちゃんも少し笑ってくれた。
「ありがと。ほんと……ごめんね」
「いいって。さ、寝てて。リビングいるね」
「うん」
おやすみ、って言うと小さく頷いてまたすぐに実優ちゃんは目を閉じた。
喋るのも本当はきついんだろうな。
静かに部屋を出てキッチンに行った。
プリンとゼリーを冷蔵庫に入れる。中にはいくつかゼリーがあった。
お茶のペットボトル取り出してグラスにつぐ。
コンロのところに鍋があって開けてみるとお粥だった。
食欲……ないだろうから、温めるときは少しだけにしておこうかな。
きっとっていうか優斗さんが作り置いてるお粥を眺めて蓋を戻した。
それからグラス持ってリビングに行く。
ソファーに座ってお茶飲んでからスマホ取り出してメール画面開いた。
一応いまお見舞いに来て、しばらくいるっていうことをメールしておく。
そしてそういや冷えピタって思いだして新しい冷えピタを持って行った。
実優ちゃんはもう寝てしまってるようだったから起こさないように部屋を出た。
出たら目の前は優斗さんの部屋。
――当たり前のことなのに違和感を覚えちまう。
なんとなく優斗さんの部屋に入ってみた。
もう何回もっつーか数えきれないくらいはいったことのある部屋。
ベッドにごろんって横になってみた。
優斗さんはいないのに優斗さんの匂いがする。
――……って変態かよ俺は。
ため息つきながら枕に手を伸ばして抱き寄せる。
……俺、なにしてんだろ。
欲求不満？
いや先週末だってここでシたし……。
ってヤバ。
思い出したら反応する。
平常心平常心……なんて呟きながら目を閉じる。
もうちょっとだけごろごろしていたかった。
もう少し――って思ってるうちに、気づいたら寝てしまってたけど。
着信音で目が覚めた。
優斗さんのベッドで寝てるってのはわかったけど、どうしているんだっけ？って寝ぼけた頭で考えながら電話に出る。
『もしもし、捺くん？』
聞こえてきた優斗さんの声に、そういや見舞いに来てたんだったって目がはっきり覚めた。
ベッドサイドにある時計を見ると12時半を過ぎていた。
結構寝てたな。
「うん」
『いま大丈夫？』
「へーき。いま優斗さんのマンションだよ」
『まだいてくれてたんだね』
「うん。実優ちゃんにお昼ご飯用意しようかなと思って」
『ありがとう。捺くん』
スマホ越し、顔は見えなくっても優斗さんは微笑んでるんだろうなって気配で感じる。
「ううん。俺も心配だったし」
『テスト勉強は大丈夫？』
「参考書持ってきてるから勉強するし」
『そう？ ならいいんだけど』
ベッドに寝転がったまま話す。
優斗さんの部屋で、優斗さんの匂いがそばにあるからか変な感じだ。
そばにいるような気がするのに優斗さんは仕事中。
『そうだ、捺くん。今日は定時であがるから早く帰れるんだ。だから、もしよかったら』
「……」
『待っててくれたら』
優斗さんの誘いは嬉しい。
夕食と、送るって言葉と、会いたいって思ってくれる気持ちはすっげぇ嬉しい。
でもさ。
「……ごめん、優斗さん。明日のテスト英数でさ、今日は家で勉強してなきゃ、お袋に怒られそうなんだ。だからもう少ししたら帰るよ」
『そっか。そうだね。ごめんね、テスト期間中なのに』
「ううん。俺こそごめん」
罪悪感に胸が疼く。
別にテスト期間中だっていつもなら平気で入り浸ってる。
でも今回は実優ちゃんが風邪引いてるし、それに――。
『じゃあ、夜にまた連絡するよ』
「ん。仕事頑張って」
『ありがとう』
それに――。
電話が切れて、一回枕に顔埋めてから起き上がる。
皺の寄ったシーツを綺麗にして部屋を出た。
キッチンに行ってお粥を小さい鍋に少しだけ移して温める。
水と薬とお粥とトレイに乗せて実優ちゃんの部屋に行った。
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