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第5夜 第40話
『明日は定時退社できるから』
「うん……待ってるね」
いつもたいてい俺が先に優斗さんのマンション行って適当に過ごしてる。
だから明日の土曜日もいつもと同じように――しなきゃだよな。
『じゃあ、明日』
「おやすみ」
『おやすみ、捺くん』
切れた電話。
ベッドの上で寝転がってた俺はそのままケータイをベッドに置いて天井を見る。
明日――か。
一週間ぶりに会う優斗さん。
今週はずっと電話とメールだけだった。
俺、明日"ちゃんと"普通にできんのかな。
考えても考えてもわかんねー。
身体横にして、丸まる。
俺は――なにを考えればいーんだろ。
前までとは違うモヤモヤに頭の中が埋め尽くされてる。
それを追い払うように目を閉じた。
そしていつの間にか寝てしまってあっという間に来てしまった土曜日。
小雨がぱらつくどんよりした昼下がりに、リビングでごろごろテレビ見てたらスマホが鳴りだした。
誰だろうって画面見る。
「……え」
表示されてる名前見て、少しの間固まった。
何回かコール音が鳴って慌てて出る。
「もしもし……?」
『あ。捺くん? いま、大丈夫?』
聞こえてきたのは実優ちゃんの声。
「うん。どうしたの?」
『あのね、捺くん今日ゆーにーちゃんのところ行くんだよね?』
「ん。夕方くらいに行こうかなって思ってるけど」
『そうなんだ。私もう少ししたら行くんだけど、一緒に行かない?』
「……え?」
『この前、風邪でお世話になっちゃったから捺くんとゆーにーちゃんへお礼に夕食作ろうと思って。あ、もちろん作ったら帰るよ』
「……」
とっさに返事が出来なかったのは――いいのかな、って迷ったから。
優斗さんの過去を聞いてから実優ちゃんに対する嫉妬は……消えた。
逆に罪悪感さえ覚えちまうっていうか……。
『捺くん? どうかした?』
「……あ。ううん、なんでもない」
『そう? それでどうする? やっぱり後で行く?』
「――……一緒、行く」
正直夕方になっても一人でマンションに行く気になれるか、わからなかった。
ついこの間までヤキモチ妬いてたくせに現金かもしれない。
でも一緒に行くってなったら少しは気が楽になるっていうか……。
って、俺ほんとヘタレだな。
『よかった。待ち合わせは……』
そのあと実優ちゃんと一時間後に会う約束して電話を切った。
のろのろと出かける準備をしてるうちに雨は止んだみたいだった。
「出かけてくる」
リビングにいるお袋に声かけて、玄関あけて空を見た。
傘いるかなあ。
また降りそうな曇り空。
……いらないか。
「捺!」
後ろで物音がしたと思ったらお袋がリビングから出てきてた。
「あんた今日は泊まり?」
「……多分」
「明日は何時くらいに帰ってくるの」
「わかんねーよ」
いつもは聞いてこないのに、今日は珍しい。
「夕食の準備があるでしょ!」
「わかんねーって」
「じゃあわかったら連絡しなさい。いらないなら外食するから…」
「……わかった」
なんで俺が食わないなら外食になんだよ。
普通逆だろ。
我が親ながら意味わかんねー。
お袋は、
「よそ様のお宅で迷惑かけないでよ」
っていうとリビングに戻って行った。
……なんだったんだ。
お袋や姉貴と喋ると疲れるんだよなあ、と玄関から曇り空の外に出ていく。
優斗さんのお姉さんはきっと面白くて綺麗な人だったんだろうな。
ふと自然に考えて、あ、って立ち止まる。
俺はいままで御不幸ってものにまだあったこともなくて、別れなんて卒業式だとかそんなのくらいで――人生経験もねーし……。
だから……なんか……優斗さんのお姉さんとかのことってどれくらい踏み込んでいいのかわからない。
俺が言う言葉で知らないうちに優斗さんを傷つけたらどうしようって……。
ため息が出かけてそれを飲み込む。
こんな調子じゃ駄目だって首を振ってあんまり難しいことは考えないようにしようって頭空っぽになるように集中しながら駅に向かった。
***
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